智沙side

15/27
前へ
/66ページ
次へ
しかし、見えたのはほんの一瞬。 その次の瞬間にはもう彼に手を掴まれて走り出していた。 僕にはその工程が美しいスローモーションに見えた。(例えそれが実際には半端ないスピード上で行われていたとしても) 僕には走っている時、周りが素晴らしいお花畑に見えた。(例えそれが実際には古ぼけた小汚い旧校舎だったとしても) 僕の視界には、もう彼(の背中)以外うつらなかった。 聴覚には、なんの音も届かなかった。 ただただ、王子様が僕を汚物の元から連れ出し、助けてくれている。 その事実で心がいっぱいだった。 だから。 後ろであそこを蹴り上げられたであろう男が半泣きで「ちっくしょおおおおお、待ちやがれ!!!」って叫んでいるのとか、 僕たちの後を走って追いかけて来た2人のうちの1人が僕の片手を掴み、それを僕が無意識にものすごい力で振り払ったせいで遠方までぶっ飛んでったこととか、 それを見たもう1人の奴が腰を抜かして追いかけられなくなったことなんて まったく知らなかった。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加