智沙side

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「‥‥そう。僕、『咲良』。」 彼には知って欲しかった。 不安だったけど、でも、彼なら‥大丈夫とも思った。 「あぁ、そうなんだ。で、なんて呼べばいい?咲良でいい?」 彼は本当に、超普通に受け止めてくれた。 「‥智沙、で、いい‥。」 本当は智沙なんて名前、男じゃないみたいでやだった。 ただでさえ母親に似てそこらへんの女の子より可愛く美しく生まれちゃったんだから、名前まで女っぽいとか余計にいやだった。 可愛いとか綺麗とか絶対言われたくなかった。(‥ていうか言われなくても鏡見てれば分かるし。) でも彼には僕のことを、家族以外呼ばせたことのない下の名前で呼んで欲しかった。 (智沙「で」いい、じゃなくて、智沙「が」いい。‥智沙じゃないとやだ。) 「智沙?」 ああほら、彼に呼ばれただけでなんだか自分の名前がストンと自分の中に入ってきた。 彼に呼ばれて初めてその名前が意味を持った。 僕=智沙、智沙=僕。 彼は確かに、僕を呼んだ。 そんな当たり前のことが僕を幸せにさせた。
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