第二章

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薄々気付いてはいた。 帰宅して鏡を見る度、キスした覚えは皆無なのに、自分の唇にテカテカとした見覚えのあるグロスがべったりとついていたから。 ある日、部活の更衣室で先輩と先輩の友達が話しているのを聞いた。 『優って2人になると超ドSなの!帰り毎日キスしてるんだけどさ、木に押し付けられて立てないくらいへろへろにされて座りこんでるのすっごい冷たい目で見下ろしてくんの!甘さ皆無!いやマジで!幻覚じゃないって!本当超絶技巧だから!マジマジ!! 今度試してみるけど絶対あっちもうまいって!まあそしたら飽きるまでセフレの位置にはおいてあげてもいいかなって思ってる! そうそう!別人!まるで 〈全然違う人格がいる〉 みたい!!』 自分の知らない自分がいる? ‥少なからずショックは受けた。 どうしよう、どうしよう、自分が全く分からない。 それは言い表し難い恐怖だった。 でも‥同時に都合のいいことだった。 これを聞いて先輩と、ちゃんと向き合って付き合う必要がないって思えた。肩の荷が、少しおりた‥気がした。 それまで、心のどこかで誠意を持って先輩と付き合えてないこと対して罪悪感みたいなのがあった。 何よりも良いのは、知らない間に嫌なことが上手く片付くってことだ。訳のわからない苛ついた気持ちからも、拭いきれない嫌悪感からも、逃げきれる。 そう思った。
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