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開店は8時で閉店は22時。休みは無しでオープン以来ずっと一人で店を回している。
一度店を開ければ外には出られない。気にする前に季節が変わってることもしばしば。
流行りに鈍感になっていく焦りを抱えながら毎日を流すだけで精一杯になり、その内に店の2階で寝起きするようになっていた。
自分の居場所が出来たことの喜びが強くてそれを苦には感じていなかった。
寿々子と知り合ってからは、客足が落ち着く15時過ぎには気分転換に外出をするようになった。
寿々子のできないオーダーが入れば、店に戻らなきゃいけないから遠くには行かないけど。
季節の風や匂いや気温を肌で感じることや短い時間でもプライベートな時間があることで精神的にも健康を保てると気づかされた。
伸びっぱなしの天然パーマをキャップの中に押し込んで、今日は鴨芽銀座商店街を抜けて駅前まで来た。
大通り沿いの駅ビルの1階にあるモダンな店構えの美容室、la pluie (ラ プリュイ)。
咳払いをして素通りするつもりだった店の前でドアノブを引っ張ると、ガツンと腕に衝撃が伝わってぶら下げてあるアルミ製のclosedのプレートが大きく揺れる。
絹子さんの言うとおりだ。定休日でもないのに秀くんは店を閉めて、どこに行ったんだろ…
「大翔、何やってんの?」
キィーっと自転車の止まる音がした。配達の途中の幼馴染の航平が不思議そうに見ていた。
「なぁ、航平。秀くん見なかった?なんで閉めてるんだろ?」
ドアから手を離して航平に近寄る。
「えー、知らねぇよ。サボり?俺時間がヤバイんだよ、またな」
肩を叩くと力強くペダルを漕ぎ始めた。
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