anniversary

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2週間くらい前だったと思う。 仕事終わりに店に顔を出した秀くんは、カウンターではなく奥のテーブル席に向かった。 喫茶店を利用する客で待ち合わせは珍しくない。秀くんだって例外ではなく待ち合わせにウチを使うことはある。 その日の待ち合わせの相手は、秀くんが好んで連れているような見るからに夜の蝶とは違う、黒のパンツスーツで地味というか質素な印象の女の人だった。 仕事の話なんだろうと最初は気にも留めていなかったけれど、途中から険悪な雰囲気の漂うテーブル席に寿々子と二人で首を傾げたんだった。 秀くんは昔から女の子にモテている。最近は夜の蝶しか相手にしていないんだと思い込んでたから、地味なあの子のことは覚えている。 それからも相手の女の人は何度か店を訪れている。時間はバラバラだけど腕時計と出入り口のドアを何度も見比べては、大きなため息をついて肩を落として帰っていく。 絹子さんから「なーんか、コソコソしてる」と言われて思い当たるのはそこしかない。 一向に開く気配のないドアに溜息を吹きかけて、また商店街に向けて歩き始めた。 寿々子、一人で大丈夫かな? いつもより長く店を開けていることに気づいて早足になる。 秀くんにも寿々子みたいな彼女かぁ…絹子さん言いたいことは解るっちゃ解るけど。 そこは付き合いの長い俺でも気安く触れてはいけないデリケートな 部分。秀くんの地雷ポイントだ。 今まで連ている子を紹介されたことはないし、いつも違う子だから秀くんにはずっと特定の彼女がいないということにしてある。 これは…俺の勝手な憶測だけど。 秀くんの心の中にいるのはずっと1人きりで、タイプが違う子ばかりを選んで遊んでいる気がしている。 本心をなかなか口にしないから、全くわからないんだけど…。
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