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櫻井莉奈子は秀くんの母さんの再婚相手の娘で俺と同い年。私立の女子校に通う子だった。
親の再婚に長年反対しまくっていても、懐いていてくる莉奈子ちゃんまで無下には出来なかったんだろう。
莉奈子ちゃんの友達のいくちゃんと俺も交えて一時期はよくつるんでいた。……あの日までは。
「もしか、して…生田さんって。…いくちゃん?」
漏斗には綺麗に洗ったろ過布がセットされてスタンドに並んでいる。
カウンターと厨房の境にはめ込んだクリアパネル越しに向き合う彼女に昔の面影は見つからない。
「はい。覚えてくれていましたか?」
というか、俺たちはそれほど仲良くなかった。嘘はつけなくて首を傾げて苦笑いするしかなかった。
「久しぶりだね、全然わからなかった。ごめんね」
「いえ、私も…あんまり記憶にはないから」
もう一度、手元の名刺に目線を落とす。
「莉奈子が、6月に結婚するんです。本庄さんに式の出席とヘアメイクをお願いしたんですけど、いい返事を貰えなくて…。
しつこく追いかけていたら、連絡すらつかなくなってしまったんです。
もう衣装合わせも済んでいて…」
目をやったカレンダーは5月。しかも、今日は21日だし。
「莉奈子ちゃん、まだ秀くんのことを?」
ありえない冗談を口にしながら眉間に皺を寄せていく。
「それは無い、無いです!私が何度も確認してますし、新郎もいい人です。私、本庄さんと莉奈子を仲直りをさせたいんです。ちゃんと幸せになって欲しいから」
使命感溢れる女って生き物は、他人のデリケートゾーンをも平気で荒らしに来る物なのか?
秀くんは、まさか未来からの遣いでやって来たロボットと戦っているのか?
映画みたいじゃん……
営業スマイルのいくちゃんは、倒しても倒しても終わらない最強の敵と重ねてしまって、一人きりで戦う秀くんを不憫に思った。
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