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明日の準備も片付けも、本当は一人で出来るのに、寿々子に甘えて手伝って貰うようになった。
プチトマトを切り終えた寿々子は冷蔵庫から薄いバットを取り出して手のひらサイズの器にヨーグルトをついでいく。
キャベツを切り終えた俺がそこにイチゴソースを一匙かける。
口数は多くないし外見も目立つ方じゃないのに、寿々子は鴨芽銀座商店街のみんなから好かれている。
こんな感じがずっとずっと続けばいいな、なんて寿々子の後頭部から背骨にかけて眺めながらにやけてしまう。
電話の電子音が響いて、手を洗おうとする寿々子を制して俺が受話器をあげた。
「はい、Sow seed.です」
『あー、大翔?』
電話の主は駅前のビルの地下にあるBARのマスターで秀くんの高校からの友達。
『結構な量を飲んでるから一人で帰すのが心配でさ。
悪いけど、秀を迎えに来てやってよ』
店の時計は21時を過ぎたところ。
受話器を置いて振り返る。
「寿々子、店じまい頼める?
俺、ちょっと出てくるから!」
腰のエプロンを解きながら裏の扉を開けて、予想外の雨の勢いに一瞬怯んだ。
見上げた空は真っ暗で強い風に煽られた雨粒が顔を目掛けて飛んでくる。
これじゃあ傘は役に立ちそうにない。
「大翔さん、待って!この雨じゃ歩いて迎えに行けないですよ!
近いけどタクシー呼びますから、それで…」
寿々子に引き戻されてタオルを手渡された。
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