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****Side.Rinako.
いくちゃんが愚図で頼りないから……泣き顔のスタンプを受信したLINEは既読スルーして、膝の上の雑誌の続きに戻った。
秀にヘアメイクをお願いしているのに、まだいい返事がもらえない。
ホームページにアクセスすれば、店の住所も電話番号も解る。意外なことに秀はブログもやっていて更新もマメにしていた。
毎日毎日アクセスして、秀が発信するプライベートを覗いている内に、もしかしたら、秀は私たちからの連絡を待っているんじゃないかっていう気になってきていた。
だったら…
身勝手な思い込みを信じたい気持ちは容易く膨らんで、抑えきれず勢いには任せて行動に出る。
暴れる心臓がウッカリ口から飛び出てこないように注意して、美容室の受付番号をタップした。
「もしもし秀?私、……莉奈子」
『あぁ、マジで?久しぶりィ』
拍子抜けするような、音信不通が嘘みたいな自然体の秀の声に胸いっぱい息を吸い込んだ。
機関銃のように飛び出してくる言葉を拾っては交わされて受け流してくれるせいで興奮が止まらない。
言葉の脈絡が少し可笑しいのは許して欲しい。
だってだって、秀と普通に話せるなんて想像していなかったんだから。
この10年、秀から母親へ電話すら無かったはず。当然、親戚が集まる冠婚葬祭に出席したこともない。親族の中には秀の存在を忘れている人もいるくらいだ。
『誰のせいだと思っているんだよ』
私だけが悪いとでも言いたげなセリフ。受話器越しの感情を押し殺した低い声にゾクゾクしてくる。
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