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「莉奈子はどんなお式がしたい?希望があれば教えてよ」
ジャケットの胸元のポケットから抜き取った安っぽいボールペンをカチカチさせる。
思い悩むように視線を天井に向けてから唇を閉ざして、想いを秘めたような表情を浮かべる私。
「あ、どうしようか…。ウチは招待客は少ないから。そうよね…」
「あぁ、違うのよ。莉奈子の夢を聞きたいの。漠然としたイメージでいいのよ?細かくなくていいのよ」
とシックな雰囲気の打ち合わせの部屋には不釣り合いな甲高い声が響く。
任せられる物は任せてしまえばいい。
たった1日のことだし、こだわりなんて一つもないから。
自分たち以外の他人にはどの披露宴だって同じで記憶にすら残らない。
「…派手にはしたくないの。いくちゃんなら解ってくれるでしょ?」
テーブルの上に置いた左手を丁寧に撫でてみせた。引っ掛かるくらい存在感のある婚約指輪は、蛍光灯の光を反射させて輝く。
「あ。……うん、そうだね」
私の家庭の事情を察したであろういくちゃんの相槌。
「心配しないで。私は好きな人と結婚するし、幸せなのよ。ただね?
……仲違いしたままじゃ、本当に幸せにはなれないでしょ?両親だって口にしないだけで心配しているのよ」
私の企みに気づき始めたのか、
明確な言葉が出てくるのを恐れているのか。
目の前の表情は固く、黙って安物のボールペンを握りしめている。
ここまで来て今更逃がすつもりはないのよ、いくちゃん。
何故ココで式を挙げるのか、教えてあげるから協力してね?
「秀にも……祝福されて、お嫁に行きたいの」
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