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「お前らが駅前で喧嘩した話を聞いた母ちゃんがさ、怒り狂っちゃって。秀くん、こっぴどく叱られたんだぜ?
そんな子に育てたつもりは無いだとか秀美に合わす顔が無いとか声張りあげちゃって、そりゃあ凄かった。
俺も知らなかったんだけど、母ちゃんと秀くんの母さんって高校の同級生で、再婚して鴨芽を出てからもずっと連絡を取りあってんだってさ。
ケツ叩けないから背中出せとか言い出してさ、泣きながら赤く腫れるくらい秀くんの背中叩いたんだ」
あのシャツの下は内出血してんじゃない?航平は噛み殺した笑いでデカイ身体を揺らす。
秀くんの背中越しに見える莉奈子ちゃんは新郎を真っ直ぐ見上げていた。
「なあ、大翔。
秀くんだって後悔してんだよ。わかってるだろ。お前にはスズちゃんがいるし店もある。
お前が種になって根を張ればそこから繋がりは始まっていくんじゃないか?
そういう、つもりなんだろ?」
話したこともない胸のウチや店の名前の由来を言い当てられて恥ずかしい。
秀くんの背中を眺めて航平の話に耳を傾けながら、手の中のネクタイをもてあそぶ。時間を経て変わりゆく形もあれば、変わらない形もあるんだと感じていた。
「おー。お待たせ、帰るかぁ?」首をコキコキ鳴らしながら秀くんが近寄って来て、ソファから立ち上がり伸びをした。
「タクシーなかったら、電車で帰る?」
先頭を歩く秀くんが莉奈子ちゃんやご両親を振り返ることはなかった。
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