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本庄秀(ほんじょうしゅう)は私の2つ上の兄。血の繋がりは無く、父親の再婚相手の連れ子。訳あって10年近く家族とは音信不通。
「秀、ここでヘアメイクもしてるんでしょ?式には出ないって言われても構わないの。
私、秀にヘアメイクしてもらいたいの」
いくちゃんは露骨に嫌な顔をした。
「莉奈子、落ち着いてよ。ね?
本庄さんは確かにウチでもヘアメイクをお願いすることがあるけれど、今回は違うでしょ?
キチンとお話をして、お式に出てもらいましょうよ?
彼はあなたのお兄さんなんだし…」
さっきとは違って、いくちゃんの声は低くて落ち着いたものに変わった。前のめりだった姿勢はいつの間にか椅子の背に凭れている。
「無理よ、来てくれないわ!断られるに決まってる。だけど、仕事なら引き受けるでしょ?
当日の1回だけでいいの。何とかして、秀にヘアメイクしてもらいたいのよ」
立ち上がりたいほどの熱意を抑えて、必死に縋り付くのは私の方。
「莉奈子は勘違いしているわ。祝福されるっていうことを解っていない。
……そんなことじゃ、後悔が残るだけよ。私は友達として貴女の幸せを祝福したいし、スタッフとして披露宴を成功させたい。
ご両親には話してあるの?新郎様はご存知なの?
ねぇ、莉奈子。秘密を抱えたままでは本当に幸せにはなれないわ。
まだ時間はあるんだから。ご両親と新郎様にもお話してみたら?」
厳しい口調でいくちゃんは優しく微笑んだ。
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