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****Side.Hiroto.
私鉄駅前の大通りから南側の1つ筋違いに、東西に伸びる2キロ弱の通りにある鴨芽銀座商店街。
色褪せたビニールの国旗がゆらゆらと風にはためく。
桜の花の季節はとっくに終わっていて、気がつけば若葉の隙間から零れる日差しが眩しい季節になっていた。
「アイスコーヒー2つ、トーストプレート2つ、です!」
我が城、Cafe Sow seed.の店内に俺の可愛い彼女の寿々子(すずこ)がオーダーを通す声がよく響く。
カランカラン、カランカランーー
「いらっしゃいませー」
ドアベルが鳴ると同時に発した寿々子の声に片手を上げてカウンターの定位置に腰を下ろしたのは、幼馴染の秀くん。
私鉄駅前の大通り沿いに店を構えてる美容師。俺たちの付き合いは、かれこれ20年になる。
「おはよ、秀くん。今日は早いね。いつものでいい?
「ぁぁ、うん…」
太陽はもうそろそろ真上に上がるっていう時間なのに、まだ寝足りない様子。
近くの椅子に座っていた商店街の顔馴染みに軽い挨拶をして、口の中が丸見えの欠伸の後に煙草に火をつけた。
フラスコには一人分のお湯を張りガスを点ける。ブレンド豆をミルに掛け、左手でろ過布をつけたロートに轢いたばかりの粉を入れて、フラスコ上部に差し込んだ。
「カウンター、ブレンドで」
フロアの作業カウンターを振り向けばオーダ順に手際よくミルクやストローを用意する寿々子は黙って頷いた。
生まれ育ったこの町で、住み慣れたこの場所で、小さな喫茶店を開いて5年。
店はそれなりに繁盛しているし、気の合う仲間が周りにいる。大切にしたいと思う彼女も出来たし……。
俺が蒔いた種は芽を出し始めていた。
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