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カラカラと混ぜてから、ゴクリと喉を鳴らしてストローを口に咥えた。ストローの中を炭酸水が上下するのが透けて見える。
「はぁ、おいし」
絹子さんは満足そうに肩を上げた。これからの季節は、このレモンスカッシュがよく売れる。
「仕事の評判もいいし、落ち着いてきたと安心してたのに。またフラフラと…」
俺は苦手な絹子さんだけど、秀くんとは仲が良くてオマケ的に俺も昔から可愛がってくれる。
学生の頃はなんかは完全なるパシリ…イヤ弟扱いだったんだけど。
歳を重ねていくに連れて飲みに行ったり買い物に出掛けたりする姿が親密に見えてきて、二人の仲を怪しむ声もあるくらいだ。
「ねぇ大翔?
秀にもスズちゃんみたいな子がいてくれたらなら、何かが変わったかしらね」
サイフォンガス台の前に立つ俺の聞き間違いじゃなければ、確かに絹子さんはそう言ったはず。
下のフラスコが生圧になって上の漏斗に吸い上げられていく。砂時計をひっくり返して、湧き上がる漏斗の中と落ちていく砂を見比べる。火を止めて優しく優しく掻き混ぜた。
フラスコへとコーヒーが落ちていくのを見届けながらカウンターへと視線を流すと、絹子さんはレジて会計する客と談笑する寿々子の方を向いていた。
俺たちの成長を子供の頃から見てきた人ね目に何が映るのだろうか。
フラスコから漏斗を抜き取って、作業カウンターに置いた。
「モカ・マタリです」
「はぁい、只今」
俺の声にすぐさま返事をする寿々子。
「ありがとうございました」と軽く会釈した後で、ドアベルが響いた。
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