問題編

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 興奮していたとはいえ、自ら見事に墓穴を掘ってしまったボクは、当然ながら行動を制限されることとなった。  二階左の突き当たり、外側から鍵の掛かる物置に軟禁状態。  よくこうも都合のいい環境があったなと思う。  壁にもたれるようにして床に座り込む。  当然ながら、窓はない。  照明の明かりが、側にある何本かの鉛筆とスケッチブックを照らす。  物置に軟禁される際に、時間つぶしのために持ってきたのだ。  鉛筆を手に取り、スケッチブックを開く。  そのまま、鉛筆を走らせる。  もう、見なくとも描ける。  猫屋敷さんが死んで、回り道さんが死んだ。  猫屋敷さんは自殺なのだと考えていたが、こうなると自殺と偽装されていたという可能性の方が大きくなる。  つまり、連続殺人。  ボクは鉛筆を走らせる。  誰が、何故。  当然、ボクは二人を殺してなんかいない。  …分からない。  ボクは鉛筆を走らせる。  仕事用のスケッチブックと、趣味のためのスケッチブックとは分けている。  仕事用は十二冊目。  趣味用はこれで三十七冊目。  手元に、集中する。  何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も描き続けている。  見なくても、完璧に描ける。  最寄凛。  彼女は今どうしているだろうか。  拘束こそされていないだろうが、元々ボクのおまけとして付いてきたのだ、あまり良い待遇は受けていないだろう…心配だ。  ボクがやるべきことは、ただ一つ。  最寄凛を守ること。  それさえ出来れば、後はどうだっていい。  犯人なんて、どうだっていい。  ボクは探偵でもなければ、刑事でもない。  ボクは。  邪答院 誰何は、画家である。 10  邪答院 誰何は、画家である。  決して絵の上手い方でもなかったボクが、何故画家を志したのかと言うと。  高校三年の頃、ボクが最寄 凛の進路希望調査書を見たからだ。  凛が進路希望調査書に書いた進路は、美術大学。  それも描く学科ではなく、見る学科である。 「絵って凄いんだよ、誰何クン。ずっと昔の人達が色んな事を思って絵を描いていて、それが数十年数百年って時間を超えて、凛達のところに届くんだよ」  別にお前の為に時を超えたわけではないだろう。彼女の楽しそうな目を見たボクは、そう言いかけた口を閉じた。  高校卒業後、凛は大学へ進学、ボクはと言うと、只管に絵を描き続けた。  朝起きて、絵を描いて、寝るを繰り返した。
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