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(真)謎解き編
1
後日。
長崎県警、取調室。
「つまり」と、気だるそうに椅子に座り、机に頬杖を付く彼は、同じように椅子に座ったボクに言う。
「一連の犯行を行ったのは、凛って事か?」
「そうなりますね」と、ボクは答える。
「お前、本当こういうのに巻き込まれやすいよな」
そう言って笑う彼の名前は最寄 冷。凛の兄で、ボクの数少ない友人の一人。優秀な奴で、二十七と言う若さにして刑事として働いている。
「第二の殺人…回り道迂曲の殺害、これはどう説明するんだ?」
「ちょっとは自分で考えてみてはどうですか?刑事作家さん」
「俺は書く専門で解くのは得意じゃねえんだよ」と顔の前で手を振る。
冷は刑事として働く傍ら、趣味で推理小説を執筆している。
冷には時々、僕の身の回りで起こる事件について話すことで、ネタを提供しているのだ。
曰く、普通の事件にはトリックも何もなくてつまらないらしい。
まぁ、ボクもネタを提供する代わりに、その平凡な事件で出てきた死体を、特別に拝ませてもらっているのだが。
インターネットで出回っている死体には、ボクの求めるエネルギーはないのだ。
「いいから早く教えろよ」
「説明もなにも、回り道さんを部屋に拘束しておいて、昼食にいく寸前に絞め殺したんですよ」
「ははは」と冷が笑う。
「待てよ、朝食の時には回り道はいたんだろう?そして、そのまま食堂で嫩等と談笑していた」
「えぇ、その通りです」
「拘束されてねぇじゃねぇか」
「いえ、その時回り道さんは確かに部屋に拘束されています」
「じゃあ何か?朝食を食べて談笑していたのは、回り道のクローンだとでも言うのか?随分とSF染みた話だな」
「いえ、クローンではありません。成り変わってたんです」
冷の表情が変わる。
「朝食を食べて、談笑をしていた回り道さんは、変装した凛だったんです」
「しかし、お前」と、冷が割り込む。
「嫩達は回り道の友人なんだろう?気づかなかったのか?」
「凛は回り道さんとよく似ていました。サイドテールにすればそっくりです。それに――」
ボクは続ける。
「それに、その日は皆、二日酔いで気分が悪かった。他人の顔をじっくりと観察する余裕なんてありませんでしたよ」
そう、みんな気分が悪かった。
ボクでさえ、回り道さんに変装した凛に気付けなかったのだから。
「しかし…いや、ありえない話ではない、か」
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