問題編

5/9
前へ
/19ページ
次へ
 別に鈍感な訳ではない。むしろ、そういった他人からの評価には敏感な方だ。  初めから、分かっていた。  分かりきっていた。  本当に、初めから。  それこそ、出会った時から。 「あたしはね、君のことが好きなんだよ」  彼女はボクの顔を両手で押さえる。  初めてあった時からボクは。  ボクは、ボクは、ボクは、ボクは。  彼女の顔が近づいてくる。  ボクはボクはボクはボクはボクはボクは。  初めて会った時から、ボクは。  ボクは。  似ているなぁと。  そう思ったのだ。  扉が開く。 「誰何クンー、こんな時間まで起きてたらまた身体壊しちゃ――あっ」  目を擦りながら現れたのは、最寄凛。  凛が、ボクの目を見る。  ボクが、凛の目を見る。  どれぐらいの時間が経ったのだろう、回り道さんがボクの顔から手を離した。 「明日、答えを聞くから」  そう言うと、部屋から出て行った。  凛はもう、いなかった。  部屋に一人、ボク。  おいおい、なんだよその顔は、凛。  まるでそれじゃあ――。 「本当、似ているなぁ」  以上、回想終了。 7  猫屋敷追悼祭、午後一時。  昼食の時間になったので、ボクは具合が良くなったと言う凛を連れて食堂へ向かった。 「最寄君、具合の方は大丈夫かい?」 「はい、猫屋敷さんが亡くなられたことはショックですけど…元気なのが私の取り柄ですからね」 「それは良かった」  凛はにこりと微笑む。凛はボクや家族以外との会話では、自分のことを凛とは言わない。  本人曰く、外交モードらしい。  ボクは自分の席に座り、凛はボクの隣に座る。  嫩さんと凛が話をしている。仕事の話だろうか、仕事熱心なやつだ。  まるで他人事のように思いながら、ボクはボーッと用意された皿を眺めていた。 8 「いくら何でも遅過ぎるわ」  現在時刻、午後一時十五分。  切り出したのは子子子子さん。  嫩さんと凛は既に話を止めており、皆で回り道さんを待っていたのだった。 「彼女のことだ。二度寝でもしてるんじゃないのか?」 「起こしに行きますか?」と、凛。 「なら、ボクが行きますよ」  そう言って立ち上がる。止めようという人は誰もいない。  食堂を出て、階段を上がる。  回り道さんには、答えを出さなければならない。  部屋の扉をノックする。  返事はない。 「回り道さん」  もう一度、ノックをする。 「回り道さん、昼食の用意が出来ました」  返事はない。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加