蟷螂

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 木戸君が厨房の中に入って行ったのを確認すると、僕は、扉のすぐ手前の所まで駆け寄った。 皹が入り、煤だらけになった厨房の扉を少しだけ開けて、そこから木戸君の動きに目を凝らす。 目が暗闇に順応して来たとは言え、矢張り暗くて見え辛い……。  「あれはどこだよ。見つかったらやべえんだよ」  厨房の中で何かを探しながら木戸君は「チッ」と舌打ちを打った。 足音が続いたり止まったりしている。服の衣擦れの音も。この時間のこの施設が静かな所為か、スーハースーハーと呼吸音も聞こえる。 それにしても、木戸君は目的のものが見当たらないのがやたら気に入らないのか、 口調が何時もの彼じゃない。 僕が今まで聞いた事が無かったのか、冷静じゃないと言うか、彼らしくないと言うか…、 何時もの木戸君なら、多分、『あれは確か見つからないようにあそこに隠しておいた筈なんだけどおかしいぞ』と言うんだと思う。 どう例えて良いか判らないけど、忘れ物を取りに来たと言うより部屋を散らかして何がどこにあるか判らず苛ついているように見える。  でも、木戸君の言うアレって何だろう。
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