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「草刈君、起きて大変よ」
先生の声で僕は目が覚めた。目の前には険しい面持ちの先生が僕の顔を眺めていた。
「…………」
一体何が起きたと言うのか。丁度後味の悪い夢と、先生の怒号で目覚めの悪い頭を何とか起こしながら僕は先生に訊ねた。
「大変って?」
「施設で火災が起きたのよ」
「火……事?」
そう言えば何処からか焼却炉でゴミが 燃える焦げ臭い匂いもするし、外からは施設の子供達が騒ぎ立てる声と消防車の音も聞こえる。
「早く起きて、非難しないと」
先生は僕の手を力強く引っ張り、部屋の外へと全速力で駆け出した。
施設で起こる火災や盗難、建造物の破損は、大抵が此処の脱走者。あるいは卒業生。性格が著しく歪んだ儘の子の仕業だと言われている。
具体的に誰かと言う事はまだ特定出来ていないが。
何故なら此処は、
辛い経験や悲しい過去を共有した子供達の為の施設で僕もその子供達の一人だ。
孤児院。表向きはそう呼ばれている。
『蟋蟀苑』
僕は此処に入所して上記の漢字二つを何と読めば良いのか判らなかったが、皆は『こおろぎ』と言うので、
僕も習って言う事にしている。
それでもこの漢字はコオロギと読むんだろうなんて知識は、これからも、誰にも教えたりする事は無いと思う。
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