蟋蟀

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 僕は今にも千切れてしまいそうな先生の白く細い手に引かれながら、部屋を出て、廊下を走り階段を下ると、砂地が広がる広場に出た。  広場では大勢の子供達が消防隊が懸命にホースで水捲きをしながら火災場所の消化する様子を見守っていたが、僕が到着したタイミングに合わせるように僕の方を見た。  「草刈君、皆が非難している時にあなたは何をしていたの?」  花山さんが僕に怒鳴り付けて来た。まるで僕が放火の犯人だとでも言いたげだが。  「寝てたけど」  「寝てた? 火災で皆がバタバタしてたのに?」  火災の中一人だけ部屋で眠っていたら、疑われたてしまうのは仕方無い。でも僕は昨晩施設を放火した記憶が無いのだ。  「本当に?」  花山さんは疑り深い。  「本当だってば」  僕はそう反論するが、花山さんを取り巻く子供達も僕の事を疑い始めた。  「昨晩厨房で何かに火を点けておいて、部屋に戻って寝れば火災に時間差をつけられるんじゃないか。そうすれば、君のアリバイは確実になる」  木戸君だ。探偵気取りの口振りが妙に鼻につく。  「ちょっと待ってくれよ。火災現場に居残る放火魔が何処にいるって言うんだ?第一、僕には施設を放火するメリットが……」  この施設を放火するメリットは何だろう。 僕には棲む場所が無くなる訳だから放火するメリットは皆無だ。  「……無い。それにだ、放火魔は必ず野次馬の中に紛れ込んで火災現場を見にくるものだろう」  「ふむ。その定石を知っているから君は虚を突いてこのタイミングで現れた訳だ」  「違う。そんなの言い掛かりだ!」  この儘では僕の容疑を晴らすどころか状況が益々不利になるばかりだ。一体放火魔はどんな奴なんだ。 施設の外から僕達が騒ぐのを見て楽しんでいるのか?
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