蟋蟀

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 でもどうして脱走者達は僕達の施設に放火したりするのだろうか? 脱走すると言う事はこの施設の事が厭になって逃げ出したとか、同級生や先生達とトラブルを起こしたとか、そんな理由だと思うけれど。 子供達は兎も角、僕はこの施設の園長と言う人がどんな人か知らない。 唯、先生は僕にとって母親のような存在だという事だとはしっかりと覚えている。 ――僕の母親。実は見た事がない。と言うか記憶がないんだが、きっと母親って先生のような人の事を言うんだと僕は思う。 優しくて、明るくて、笑顔が眩しくて、それでいて掌が暖かく柔らかい。  「皆、早くお部屋に戻りましょう」  先生は子供達の安否を確認すると施設まで誘導し、子供達はゾロゾロと施設の中まで戻って言った。  「先生…」  残った僕は先生に幾つか気になった事を訊ねてみた。  「なに? 草刈君」  僕の方を振り返っていた先生の表情は少し翳りがあった。  「先生は脱走した子の事を知ってるんですか?」  唐突だっただろうか。 けれど、僕が入所する前から沢山の孤児を見て来た先生なら、脱走した子供について何か知ってる筈だ。 過去に何があったのかも。  「ええ、知ってるわよ」  答えたくないと言った表情で先生は答えてくれた。  「どんな子ですか?」  そう訊ねると先生は深呼吸を一つして。  「草刈君。まさかその子に放火の罪を着せられた事を言質する積もり?」
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