第1章

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Woods in woods(海の章) 第一章 月が沈む森  人類が、免疫の出現により森の腐食菌の恐怖から逃れた。までは良かったが、免疫の専門家であり現役高校生、時国(ときくに)が無表情でとんでも無い事を言い出した。 「百鬼(なきり)の唾液を元に培養して、誰にでも効く、森の腐食菌の免疫を作ることが出来るようになったけど、競合していたのは、腐食菌と岩石化の菌だけではなかったよ」  他に菌があるのか?興野も驚いて、珍しく固まっていた。  ここは、森に隣接した俺の家で、急に時国が訪ねてきていた。腐食菌の恐怖が減ったせいか、公園にも人の来訪が増えている。 「何の菌?」 「腐食菌に似ている、手足が突然爆発したという事例があり、腐食によるガスの発生とされていたけど、あれはもう一種の菌だった。爆発により胞子を排出する際に、本体も吹っ飛ぶ性質があり、発見されていなかったのだね」  時国の無表情は見慣れてきたが、多分、発見した本人も驚いているのだろう。 「そして、困ったことに、百鬼から直接唾液を交わした者には、この菌の免疫も出来たが、培養で接種した者には免疫が出来なかった」  どこに違いがあるのかが、時国を悩ませているらしい。俺は、この免疫のせいで、友人一人を殺されてしまっていた。又、誘拐の騒ぎはごめんだった。 「時国、急いで、培養では免疫が出来ない原因を突き止めてください」  時国に、夕食のパンを渡す。時国は、喜んで暖炉でパンとチーズを焼いていた。時国、暖炉がいたく気に入ってしまい、餅なども焼きにくる。みかんも焼く。 「がんばり、ま、す」  時国は感情が出ると、壊れたロボットのようになる。頭と感情と、体がうまく連携していないらしい。 「百鬼、気を付けて。俺、百鬼、大切」  時国が、懲りずにまた火傷していた。火は熱いと言っているのに、何度も進歩せずに焼きたてに触ってしまうのだ。 「夕食、ごちそうさま。重要だから直接話したかった。送らなくていい、護衛が付いているから」  時国、パンを食べると足早に帰って行った。  人類を怖がらせている菌の種類が増えた。それは、公表したらパニックになりかねない事実だった。 「百鬼、今日からベッドを一つにしてしまおう。また護衛が重要になってきたしな」  興野と暮らし初めて、半年が過ぎた。秋から始まり、もうすぐ春になる。 「俺、成長する予定だよ。ベッドきつくなるよ」
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