第1章

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 興野が笑う。その後直ぐに、興野の笑いの意味は分かった。俺、何にもできない。しかも、下手だった。 「…練習します…」  それより、興野はどこで練習したのか気になる。 「大丈夫、俺が教えるから」  どうも俺は背中が弱いらしい。背中を舐められると、全身の力が抜ける。全身の力が抜けたところで、腹部、胸部全て興野に吸われ、かじられて、キスマークが付く。 「手でしてくれればいいよ」  それも難関だが、これくらいは俺が頑張らなくてはならない。 「百鬼、これからも一緒に居よう」  その言葉を聞けただけで、幸せだった。  言葉を聞いていて良かった。その後、興野は博士とデキていたとか、海渡の女性兵士といい仲だったとか、海渡の女子高生を孕ませたとか、様々な情報が入ってきていた。半分は興野がモテていたので、デマだろうが、多分事実も混じっているだろう。  貝の標本を冬樹に届けると、すごく喜んでくれた。冬樹、都森と米花だけで育ち、本物の海を見たことがなかった。 「貝か、これ生きていたなんて嘘みたいだ」  どうして、こんなに綺麗な形や色をしているのか、冬樹は不思議がる。  冬樹の部屋に、貝のコーナーができてしまっていた。  「友秋、明日から学校再開だよね。言っていなかったけど、北見も学校を休んでいた」  北見、研究に没頭してしまっているらしい。海藻にハマり、面白い物体を造ったのだそうだ。 「北見のところ行ってくる」  北見にもお土産を用意していた。北見の部屋を訪ねると、ゴロゴロと不思議な物体が廊下を転がっていた。 「百鬼、おかえり」  土産の生きた海藻を見せると、北見は飛び上がる程喜んだ。 「これこれ、この廊下を転がる物体は、海藻を元に造った。無害だけど有能。空気中の菌を捕食して食べる」  どうして海藻が?の理論は分からないが、結果として出来てしまった、研究者失格の代物なのだそうだ。  乾燥を怖れる海藻が、空気中の水分を吸収しようとして、副産物として菌まで取ってしまうのだそうだ。 「それから、海のコンクリートの試作品」  もはや、北見、義肢の研究者ではないような感じであった。見事な論文と、海でのコンクリートの造り方を丁寧に解説していた。後はテストを繰り返し、実用化する。その作業は、企業に任せるらしい。 「何でも、突き詰めると面白い。しかも、どの道も結局一本になる」
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