第1章

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 明日から学校に復帰すると、北見は告げる。志木森の研究者と議論しながら、分析していたら面白くなってしまったのだそうだ。熱中すると周囲が見えない北見らしい。  各種のお土産は興野が用意していたが、喜ぶツボをよく把握していた。  エレベータに乗って帰途につくと、エレベータの事故を思い出した。エレベータに、北見の造った藻の塊を歩かせておくのも面白い。菌を食べるので、風邪予防にもなるかもしれない。  でも、あの時の乗客はどこに行ってしまったのだろう。藻に絡まれて沈んで行った海渡と、エレベータがだぶって見えた。  その夜、蒼から連絡があった。父親がまだ見つからない事と、救助がされていないようだと泣いていた。  新しい救助者が、全く来ないのだそうだ。係員に問うと、他に運ばれていると答えるが、その他はどこかと聞いても誰も答えない。 「興野…」 「俺達に何ができる?」  俺達が救助に行けるのは森だけで、海に権限はない。  最後に海に飛び込んだのは、貧困層が多くテロリストも多く含まれる。どの都市も収容することを怖れて、救助が出せない。 「でも、一言助言するならば、自力でたどり付いたならば、政府が保護できるということだ」  ゴムボートで、動力も付いていなかった。オールだけで進むだけの船で、どうやって陸地を目指したら良いのだろうか。  そんな時、微かな声が聞こえてきた。 『アキ兄ちゃん』  少女の声。ケラケラと笑う声も聞こえてきた。これは華菜の笑い声だ。よく笑う少女で、成長は遅かったが、頭脳だけは異常に発達していった。  確証はないが、もう一つの森の細菌がある。人体の一部分だけを発達し続け、母体を死に至らしめている。俺達もその影響を受け、代を重ねて免疫を持ちながら進化を続け、森の住人へと特化していったのだ。  華菜は感染し、頭脳を発達させた。 『アキ兄ちゃん。秋季ちゃんは死んでしまったの?見つからないよ』  声は幻ではないが、耳に聞こえている訳ではないようだった。どこで、聞こえているのか?探してみると、窓。コップ、振動が言葉になって、俺には感じるらしい。 「秋季も両親も亡くなった」 『父さん、母さんは知っているの。華菜に被さって心臓が止まったの。冬樹も生きているのね』 「百鬼、誰と喋っている?」  興野には華菜の声は聞こえていなかった。   第五章 眠れる森の頭脳 「幽霊ではなくて華菜なのか?」
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