第1章

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 冬樹の耳には華菜の言葉が聞こえていなかった。 『冬樹は、直接はダメだけど、機械に繋いでごらんなさい』  冬樹の手を通信機に繋ぐと、華菜の声が冬樹にも聞こえてきたらしい。 『冬樹、アキ兄ちゃんを助けてあげて。アキ兄ちゃん、海で遭難している人を助けたいみたいなの』 「俺も兄ちゃんですが…」  昔から華菜は、冬樹は呼び捨てだった。 「華菜、案はあるのか?」  ここは冬樹の部屋だった。華菜の声は俺には、どこでも聞こえるが、冬樹には通信機器のある場所という限定が付いていた。俺の家では冬樹が華菜と話す事ができなかった。 『華菜ね、通信網に入れるの。冬樹とアキ兄ちゃんの通信が急に聞こえて、華菜が目覚めたのだもの』  華菜の案では、遭難者の中にも通信機が生きている物があるので、誘導するというものだった。でも、華菜は通信機のデータの中を移動できるが、方位や誘導方法は分からず、冬樹の手を借りたいとのこと。  冬樹ならば、通信機を通して、周囲の海藻も操作することができ、海藻をボートに付けスクリューのように動かせば動力として使用できる。 「やってみるか」  華菜が通信機を見つける。冬樹は通信機から現在位置を特定し、誘導する。 「出来るけど、これ、一艘ずつしか出来ないよ。集中力が必要だ」  冬樹が、バテて横になった。 『華菜も疲れた、眠る』  一日一時間が限界といったところだった。でも、確実にボートは陸に近づき、何艘かは陸から発見されて保護された。 「蒼、お父さん見つかったか?」  纐纈家は、父親が見つかるまで移動できないでいた。 「まだ…」  泣きそうな蒼の声に、今、蒼が長男で皆の希望なのだと告げる。  数日後、蒼から父が見つかったとの知らせを受けた。 「良かった」  華菜、通信網を使い俺の近くに居るらしいが、一日一時間がやっとのようで、眠りにつく。俺は、華菜に聞かなくてはならないことがあった。 「興野、俺、軍部の機材を借りて、華菜との会話を記録してくる」  家で興野と二人になった。俺は華菜の頭脳だけが目覚めたことを、興野に告げた。 「護衛、付けた方がいい」  華菜の頭脳は、国の財産とも呼べる代物だった。 「うん」  興野が俺の頭を包み込む。 「百鬼の家族は、下に行くほど厄介だな…」 「うん…」  いつものキスだ。絡みついて、深く触れ合う。
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