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冬樹の耳には華菜の言葉が聞こえていなかった。
『冬樹は、直接はダメだけど、機械に繋いでごらんなさい』
冬樹の手を通信機に繋ぐと、華菜の声が冬樹にも聞こえてきたらしい。
『冬樹、アキ兄ちゃんを助けてあげて。アキ兄ちゃん、海で遭難している人を助けたいみたいなの』
「俺も兄ちゃんですが…」
昔から華菜は、冬樹は呼び捨てだった。
「華菜、案はあるのか?」
ここは冬樹の部屋だった。華菜の声は俺には、どこでも聞こえるが、冬樹には通信機器のある場所という限定が付いていた。俺の家では冬樹が華菜と話す事ができなかった。
『華菜ね、通信網に入れるの。冬樹とアキ兄ちゃんの通信が急に聞こえて、華菜が目覚めたのだもの』
華菜の案では、遭難者の中にも通信機が生きている物があるので、誘導するというものだった。でも、華菜は通信機のデータの中を移動できるが、方位や誘導方法は分からず、冬樹の手を借りたいとのこと。
冬樹ならば、通信機を通して、周囲の海藻も操作することができ、海藻をボートに付けスクリューのように動かせば動力として使用できる。
「やってみるか」
華菜が通信機を見つける。冬樹は通信機から現在位置を特定し、誘導する。
「出来るけど、これ、一艘ずつしか出来ないよ。集中力が必要だ」
冬樹が、バテて横になった。
『華菜も疲れた、眠る』
一日一時間が限界といったところだった。でも、確実にボートは陸に近づき、何艘かは陸から発見されて保護された。
「蒼、お父さん見つかったか?」
纐纈家は、父親が見つかるまで移動できないでいた。
「まだ…」
泣きそうな蒼の声に、今、蒼が長男で皆の希望なのだと告げる。
数日後、蒼から父が見つかったとの知らせを受けた。
「良かった」
華菜、通信網を使い俺の近くに居るらしいが、一日一時間がやっとのようで、眠りにつく。俺は、華菜に聞かなくてはならないことがあった。
「興野、俺、軍部の機材を借りて、華菜との会話を記録してくる」
家で興野と二人になった。俺は華菜の頭脳だけが目覚めたことを、興野に告げた。
「護衛、付けた方がいい」
華菜の頭脳は、国の財産とも呼べる代物だった。
「うん」
興野が俺の頭を包み込む。
「百鬼の家族は、下に行くほど厄介だな…」
「うん…」
いつものキスだ。絡みついて、深く触れ合う。
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