第1章

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 護衛は、他に任せられないと興野が引き受けてしまったらしい。しかも、冬樹も北見も付いてきてしまった、おまけに専門家として時国も付いてきていた。  軍部は小部屋を一つ用意し、そこに華菜を記録するための機材を置いた。 「華菜、前に聞いた、岩石化のワクチンを教えて」 『いいよ』  機材が自動で動き出した、画面に複雑な記号や図式が浮かびあがる。 『第一期から第十四期に岩石化の症状を分類するの、それでね、今の症状の二つ先のワクチンから投与してね。岩石化には抗菌剤がないの、期の違いでまるで別の菌になる性質を利用して、先行する期のワクチンの投与で病状をストップさせるの』  岩石化は現状の症状の分類を間違わなければ、ワクチンの効果が表れる。症状をストップさせることはできるが、しかし、元には戻らない。治療するにはワクチンではなく、抗菌薬となる。しかし、岩石化の抗菌剤はない。 『第十四期の場合は、もうワクチンはない』  岩石化が完了してしまった場合は、もうワクチンではどうしようも無かった。 『予防の場合はね、第三期のワクチンを薄めて使用するといいよ』  笑いを含んだ華菜の声だった。 「分類か、全ての症状に効果を求めたので、成功しなかったのか」  時国が、華菜の図式を眺めていた。 『あとね、アキ兄ちゃんは他の細菌に感染しているから成長しないの。若木菌、免疫を生成する鍵となる菌。無制限に免疫を造るけど、そのままにしておくと母体を十年で死滅させる菌』  初めて聞く菌の名前だった。 『だから、誰にでも適応する免疫ができるのではなく、若木菌の保持者で感染元だからだよ』  華菜の言葉がだんだん遅くなってきた、眠くなってきたのかもしれない。 『若木菌は年を取らない。華菜はアキ兄ちゃんを死なせたりしないよ』  華菜が眠りに付いて居た。 「納得したよ。何故、百鬼とのキスで免疫が出来るのか。時間の経過で威力が減るのか。そして、これ今まで発見された菌全てのワクチンと対応する抗菌薬が、ここに記載されている」 「華菜」   もう呼んでも眠っていた。頭脳を動かすだけの栄養や酸素が、今のシステムでは生み出せないのかもしれない。  華菜との通信は、俺か冬樹だけにしか出来なかった。特に、華菜を目覚めさせられるのは、俺限定らしい。
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