第1章

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 しかし、これはぬか喜びだった。身長は確かに伸びていたが、簡易検査をすると、若木菌も健在だった。若木菌に対して、抵抗力が出てきたらしい。でも、このまま成長を続け、体力が付けば、菌に対して強くなるという見込みができた。だいたいの免疫持ちが、同じ順路で切り抜けている。 「興野、やっと本番ができるかもな」  都甲が、際どい台詞を吐き、興野が咳き込んでいた。 「当初、どうして興野のような奴が百鬼に構うのかと不思議だったけど、今は分かるよ。俺と暮らそうよ、百鬼」  都がからかってきた。背はまだまだ低いが、同じ年の男だぞ。 「…都甲」  目をみて少し焦る、都甲、結構真面目に言ってきていた。 「メチャクチャ面白いよ、百鬼と居ると」  笑いながら都甲が歩き去って行った。  身長が伸びて嬉しいとはしゃいだ気分だったその日、国はテロ対策のため海渡の避難民を、今後一切受け入れしない、との発表を出した。  海渡都市は、この国にあっても、海上都市に所属し、海上都市は人工島の関係で各国の土地とは認知されないというシステムがあった。  今後、新たな海渡の人間を、陸地へとあげることができなくなった。これは、事実上の見殺しだった。 「どうして…」  理由は分かる、テロ行為を止めないのだ。ビルという密集した空間でのテロは、致命傷になりやすい。 「どうして…」  でも、避難民は陸地を目指し、そして助かったテロリストは、見殺しにされた仲間の復讐をするだろう。悪循環だ。  華菜は時折目覚めては、色々な細菌のワクチンを造り、そしてまた長く眠りにつくを、繰り返した。しかし、徐々に弱っているのは確かで、目覚めている時間が短くなってきていた。 「華菜から伝言で、もし、華菜が全く目覚めなくなったら、友秋がスイッチを切りにきて欲しいそうだ」  スイッチというのは生命維持装置のスイッチのことだろう。俺が華菜を殺さなければならないのだろうか。確かに、俺は安らかな眠りを華菜に与えてあげたかった。 「冬樹…」  興野の代わりに冬樹が護衛するようになったが、冬樹、森の守り人までするようになっていた。  興野は、半分は軍部で仕事もしている身なので、確かに忙しい。森の守り人は、冬樹に任せるのかもしれない。  公園付近では、細菌、危険種とまではいかないが動く植物が増えてきていた。幾ら免疫があったとしても、ビルの住人は森に対応する能力は持っていない。
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