第1章

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 その後、秋季が岩石化に感染していると分かった。秋季は、既に三人の会話についていけなくなっていた。  思い出が甦る。冬樹が、俺の涙を手で拭っていた。冬樹にも、屋根裏は懐かしい思い出のようだった。 「華菜、ピンクは却下」 『嫌よ』  華菜、結構頑固だった。  それから、華菜の指示なのか、森に小さな道ができ、奥に巨大な建造物が建ってきた。表面は森を刺激しないように木造だが、中には強固な最新の素材が使用されていた。太陽光で発電し、最新の機械システムを内包する建物。何かの拠点なのか?それは、消えゆく華菜の城のようでもあった。  地下シェルターも、何人用なのか想像できないものが用意されていた。 「華菜、冬樹の家なのか?これ」 『アキ兄ちゃんも住んで欲しいけど、アキ兄ちゃん、興野さん大好きだもんね』  冬樹の家らしい。 『冬樹はね本当はすごいの、冬樹が気が付いていないだけ』  冬樹はすごいと、俺も思う。 『アキ兄ちゃんが華菜は大好き。アキ兄ちゃんのお嫁さんになりたい。アキ兄ちゃんの脳はね華菜と同じだけど、若木菌でアキ兄ちゃんは免疫を造った。華菜はそれができなかったよ』  声が小さくなってゆく、華菜がまた眠ってしまった。  しかし、森の住居は、一人暮らしの家には到底見えなかった。部屋数も二十室はある。華菜は何を考えて、この家の設計をしたのだろうか。  建物の奥には、まだ建設している家がもうひとつあった。小さな家で、俺が想像していた規模の森の家だった。  華菜、予期したのだ。北見の技術で、義肢を付けたいという人物は多く存在していた。蔓で又神経を繋げるだろう。そうしたら、ビルに住めなくなるのではないか?もしかしたら、北見の治療院兼リハビリの施設を兼ねているのではないか。  中の設備を確認すると、俺の読みは当たっていた。ここは住居ではない。  華菜は通信網に自在に入り込み、あるとあらゆる知識をその頭脳に蓄積していってしまった。本体は決して目を開くことはなかったが、その頭脳が既に脅威となっていた。  このままでは、脅威として軍部に華菜が排除されてしまう。 「華菜」  出来上がった森の家で、俺は空中に話しかける。 『分かっているよアキ兄ちゃん。華菜はもう少しで消滅する』  でもその前にやりたいことがあるのだそうだ。  緑の中から差し込む光はやさしい。俺は華菜も失いたくなかった。
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