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学校が終わり、森の守り人の仕事を済ませると家に戻った。冬樹は、北見に呼び出されて最上階に行っていた。
「ただいま」
誰も居ないと分かっていても、習慣で声を掛けてしまう。
「おかえり」
興野が着替えているところだった。俺の見慣れない軍服を着た興野。正式の任務に行くのかもしれない。
「行くところか?」
「ああ」
怪我しないで欲しい。でも、そんな事は言えない。軍服の興野は、りりしくて、いつものちゃらちゃらした雰囲気からかけ離れてストイックだった。
「身長、また伸びたな」
興野の笑顔につられて、俺も笑顔になる。
「ケリつけたら帰ってくる。待っていてくれ百鬼」
握手で別れた。
第六章 眠れる森の頭脳Ⅱ
華菜の件は、隔離だけでは済みそうにもなかった。世界中から、華菜へ工作員が向けられた状態に近い。拉致するか、殺すか。
そんな状況でも、一高ではのどかだ。
「百鬼、機材を買いに行くのに付き合って。二基ビルのジャンク街に行きたい」
「いいよ」
北見も、華菜を知っていて、どうにか助けたいとは言っている。けれど、工作員はプロだ、北見を近づけるわけにもいかない。
兄二人からも、華菜を諦めろと言ってきた。このままでは、俺も冬樹も殺されると、心配している。
背が伸びて、制服も買い換えた。冬樹も交えて買い物もいいかもしれない。
地下まで行き電車に乗ると、二基ビルに向かう。ビルの中で、たいがいの事柄は完結してしまうので、他のビルに行く事は少ない。冬樹は初めての二基ビルかもしれない。
電車を降りると、そのまま地下街があり、雑多な小さな店が建ち並ぶ。二基ビルにのみ存在する、ジャンク街。北見の好きな場所だった。
北見は買い物でも、熱中してしまうタイプなので、放っておき、ふらりと通信機の店に入った。俺は、機械は強くない。田舎育ちだったせいもあるが、森で電気機器を信用できないせいもある。
小道に入り込むと、時計の店を発見した。腕にはめる時計は、今は進化して様々な機能が付いた。けれど、俺は、ただ時を刻むだけの時計も好きだった。
「買ってあげようか?」
「都甲」
学校及び学校付近以外で、都甲の姿を見たのは初めてだった。
「俺のオススメはこのタイプ」
時計を覗く振りをして、都甲が俺の耳にささやいた。
「付けられているよ」
ガラスに移った後ろには、確かに怪しい黒服の姿が見えた。
「他のも見る?」
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