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『あのね、華菜ね。新しいセキュリティを考えたの。生体型でね、すっごいやつ。で、アキ兄ちゃんの名前で発表した』
幻聴ではない。
「華菜?どこに居る」
『みんなの中で生きているの』
よく皆の心の中で生きているとか言うが、それではないだろう。
『華菜の家のコンピュータに移動しようとしたら、変な奴らにマークされていたの、だから、沢山の人の脳に少しずつ分散して移動して、統括部分だけここのコンピュータに居る』
人の脳に移動して生きている?のか。スイッチを切っては、本当は華菜の人間としての声だったのではないか。俺が、華菜を化けものにしてしまったのかもしれない。
冬樹が、俺と華菜の会話を聞いて、廊下で茫然と立ち尽くしていた。そこに、ドーベルマンのような犬が走り寄ってきた。
『これが生体型の監視システム』
「番犬、だよな」
どう見ても、触っても生きた犬だった。
『脳は肉体に寄生している。肉体は脳が無くても生きられた』
最初から懐いた犬だった。
『この生体型は、脳とシステムが繋がっているの』
恐ろしいことを、聞いてしまった。でも、どう見ても犬だった。犬は散歩が大変だ。
「冬樹、散歩当番決めようか」
『散歩はいいの。システムでちゃんと管理しているから』
華菜に俺の許可なく、俺の名前を使うことを禁止させた。
「生命への冒涜もダメ。これは犬」
システムに繋がっていても、お手もできないのはダメだ。
『えぇ』
華菜から不満の声が聞こえた。
『それじゃあ、新しい細菌を造ってもいい?』
「ダメ」
子供のまま存在することが、子供のまま力を持ってしまうことの恐ろしさが、少し分かった。
「風呂も覗くなよ」
『そんなこと、しません!』
華菜が怒って無言になった。意外にも華菜の興味は世界へと向いていて、俺達の生活には干渉してこなかった。
しかし、華菜が存在しているということは、秘密にしなくてはならない。
でも、秘密というのはどこかで漏れてしまうのかもしれない。
どこにでもあるような細菌による死、子供がビルの階段から落ちて死亡。女性の心臓麻痺。一つ一つは何の不審もなかった、しかし、それらが全て繋がっていた。華菜の住んでいた脳であったのだ。このままでは、華菜の存在が崩壊する。
「どうする友秋」
学校に行くエレベータの中だった。冬樹の中学は一高の二つ上の階になる。
「華菜は怖いよ」
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