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「大ちゃーん。ねぇ、大ちゃんたらぁ!」  うるさい。こいつは……なんでこんなにうるさいんだ。俺は黙って歩き続けた。 「大ちゃん、返事くらいしてよ。」 …………。 「泣くよ!」 「わかった!なんだ、何なんだ!」 途端にニッコリ笑った。知能犯。 「あたしねー、きょう、誕生日なんだ。 「で?」 「大ちゃん何かくれるでしょー?」 ちょっと待て。何だ、この厚かましさは!俺、如月大介とこいつ、松野明日美は1ヶ月前に出会ったばかりなんだぞ。それも十七(あ、きょうで十八か)のガキが二十八の俺にだ。 「おまえ、誰が、『大ちゃん』なんて呼んでいいって言った。十一も年上の俺に向かって?」 「あ、すーぐ話題変えちゃうんだ、おじさんは。」 「誰が『おじょさん』だよ!」 「だあってぇ、『大ちゃん』でダメなら『おじさん』ぐらいしかないんだもん。あと『おっさん』とかー、『如月』……『大介』ってーのもいーかもね。」 こいつ、頭とんでやんの。 「でもやぁっぱ、『大ちゃん』だぁ。」 俺は正直言って、彼女に戸惑っている。俺がダチとふたりで暮らしているマンションの、隣の部屋に一ヶ月前引っ越してきた彼女は、俺を見るなり『運命の人』と思ったそうだ。が、俺にとっちゃとんだ笑い話だ。 十七のガキが二十八の俺に、しかも、俺はタダの人間じゃあない。満月の夜に姿を変える、あの伝説の『狼男』だ。 しかし、そんなことをちっとも知らない彼女は、毎日俺にまとわりついてくる。 「きょう、満月だね。」 俺はドキッとして足を止めた。もうちょっとで晩メシの材料を落とすところだったぜ。 「夜、あたしの部屋でパーティーしよ?」 冗談じゃないぜ。今晩、俺は人間じゃねーよ。
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