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「声出すなよ」
鼻先に彼の熱い息吹を感じながら、上目遣いにグッと見上げて笑ってやる。
トイレのひんやりとした空気を、彼が必死で保つ呼吸の音だけが微かに揺らしている。
「誰が聴いてるかわかんないよ」
「……せ、星児、や、やめ」
「黙れよ」
冷たく吐き出したその口で、彼の熱を秘めたそれを再び深く含んだ。
「……んっ……」
堪えきれない呻きが頭上から洩れ出す度に、聴覚が刺激されてオレまでゾクゾクする。
そのゾクゾクをそのまま彼に返還してやろうと、ぐちゃぐちゃな感情のすべてをその行為にぶつけた。
彼の乱れた呼吸音に混ざって、淫らな水音が響く。
幸か不幸か、トイレには誰も入ってこない。
誰かに見つかりでもしたら、いっそ彼だって割りきれるかも知れないのに、つくづく世の中はオレに優しくはできていないらしい。
「んっ、んっ、……んんっ……!」
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