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「これからあの女抱くとこだった? 今日はもう無理かもね」
白々しく言い放ちながら、オレは動けない彼の身なりを整えてやる。
何事もなかったかのように、ひとつの狂いもなく元どおりにしてやる。
立ち上がっても、彼はまだ冷たいトイレの壁に張り付いたままだ。
その目が怯えたようにオレを見つめている。
怯えの奥になにが見えるのか、オレの曇りきった瞳では判別がつかない。
あいつの綺麗な魂に触れて、曇りのない恋心を突きつけられて、なにかが変わるかもと思ったのに。
癒されてすべてが浄化される前に再会してしまったのはなぜなのだろう。
オレには綺麗になることは許されない?
心のままに誰かを愛することは許されない?
「なんならもう一回してやろうか」
顔のすぐ脇に片肘を着いて、角に追いつめる。
まだ微かに紅潮したままの頬も、潤んで崩れそうな瞳も、すべてが憎らしかった。
「……星児。やめてくれ」
「ハッ、どの口が言ってんの。してくださいお願いしますの間違いじゃなくて?」
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