恋の音が聴こえないanother side

6/8
318人が本棚に入れています
本棚に追加
/269ページ
「……そんなことっ……」  顔をグイッと近づけるだけで、彼の言葉はひくついた喉の奥へと消えていった。  さらに唇が触れるギリギリまで近づくと、まぶたがギュッとかたく閉じられる。  期待から?  嫌悪から?  確かめなくても明白だ。 「おまえも呪われろ」  唇の前に落とした声は、思いのほか低くて他人のもののように聴こえた。 「ボクよりうまくおまえをイカせられる奴なんていないんだよ。男でも、女でもさ」  我ながらよくこんなに憎たらしい声が出せるなと思う。  嫌われることばかりに集約していく、オレの口。 「……ボク……?」  不思議そうにつぶやかれた言葉は無視。  おまえにオレを知る権利なんて与えてやるものか。  ただ、忘れさせない。  許さない。 「思い知ればいい。奏音(みなと)」  耳許で名前をささやくと、ビクッとおもしろいくらいに肩が揺れた。 「ハッ、くれぐれもデート中に思い出さないように。恥かいちゃうから忠告しといてやる」
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!