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「……そんなことっ……」
顔をグイッと近づけるだけで、彼の言葉はひくついた喉の奥へと消えていった。
さらに唇が触れるギリギリまで近づくと、まぶたがギュッとかたく閉じられる。
期待から?
嫌悪から?
確かめなくても明白だ。
「おまえも呪われろ」
唇の前に落とした声は、思いのほか低くて他人のもののように聴こえた。
「ボクよりうまくおまえをイカせられる奴なんていないんだよ。男でも、女でもさ」
我ながらよくこんなに憎たらしい声が出せるなと思う。
嫌われることばかりに集約していく、オレの口。
「……ボク……?」
不思議そうにつぶやかれた言葉は無視。
おまえにオレを知る権利なんて与えてやるものか。
ただ、忘れさせない。
許さない。
「思い知ればいい。奏音(みなと)」
耳許で名前をささやくと、ビクッとおもしろいくらいに肩が揺れた。
「ハッ、くれぐれもデート中に思い出さないように。恥かいちゃうから忠告しといてやる」
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