序の章

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「洋子?」 男が不安に染まった顔で、少し屈んで覗き込む。 女の黒眼は、異常な早さで左右に振幅していた。 「大丈夫か?おい、洋子!お前一体……」 そう言って男が女の背中を摩った瞬間、車椅子に身を預けていた女性はスッと立ち上がる。 ゴキッ……ゴキゴキッ…… 首を歌舞伎役者のようにグルグル廻すと同時に首から怪音が響き、肩幅が少し広くなる。 「よ……洋子?お前、なんで立って……」 男が驚いてベンチから立ち上がった瞬間、女は目を見開いて男に襲い掛かった。 明らかに80代とは思えない機敏な動きで男の首を両手で握り締める。 「キリキリキリキリキリキリキリキリ……」 男には聞こえない歯ぎしりのような音を口から漏らす女。 「よ……うこ……何を…………するんだ?」 男は女の手を何度も叩くが、女は更に力を強めていく。 異変を感じたシルバーセンターの職員が中庭に集まって来る。 しかし、その時には既に男の首は胴体から千切り落とされていた。 「いやぁあああああ」 穏やかな春の午後、狂った老婆は腕をプラプラさせながら、男の職員と患者を1人残らず襲って行く。
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