序の章

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リビングからは焦った様子で警察に電話を掛ける女の声が聞こえる。 「はい……そうなんです!庭に知らない女性が急に現れて、ガラスをずっと叩いてて……。住所は杉並区……」 電話の途中、窓ガラスは激しい音と共に完全に割れ砕けた。 ワンピースの女はガラスの破片など気にせず、膝をフローリングに乗せてズルズルと這うように侵入してくる。 痛みを感じていないのか、ガラスが膝に突き刺さっても表情は全く変わらない。 暗闇でハッキリ見えなかった女の顔は青白く、首筋の青白い血管が異常なくらいに目立っていた。 「キリキリキリキリキリキリキリキリ……」 歯ぎしりのような耳触りな音が女の閉じた口から放出される。 しかし、その音は男には聞こえて居ないのか、リビングに居る女だけが反応した。 通話途中で携帯電話をカーペットの上に落とした女は、甲高い悲鳴を上げる。 「キャアアアアア!」 「キリキリキリキリキリキリキリキリ……」 女の叫び声にも全く反応しないワンピースの女は、異形に広がった肩を捻らせながら、両腕を熊のように挙げる。 恐怖のあまり腰が抜けた男は這い蹲り、ダイニングテーブルの上に置かれたナイフに手を伸ばした。
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