6131人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
しばらく無言で空を眺める二人。
その時、女は耳に自分の手をあてて嬉しそうな表情で呟く。
「ほんと春が近付いてる証拠ね。
2月は聞けなかった虫の声が聞こえてる」
その発言に、男はきょとんとした顔で停止する。
「虫の声?そんなの聞こえるかい?」
「うん……ほら、キリキリって言ってるでしょう?」
女は目を閉じ、諭すような口調で男に告げる。
しかし、男の耳には相変わらず虫の声は届かない。
「どうやら、耳は君の方が随分いいようだ。僕には全く聞こえないよ……。
でも、キリキリ鳴くってどんな虫なのかな?」
「さぁ……私も初めて聞く声だから……ワからナイわ。
でも、スごくココチいい音色……」
女の声が所々裏返り始める。
それに気付いた男は女の顔を覗き込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!