第弐譚 近藤勇の嘆き

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元より人と接するのが大好きな近藤にとって、これは人生最大の悩みであり、大きなコンプレックスとなっていた。 ちなみに先程の少女は、近藤に代わり山南が手を引いて起こしてやり、膝に付いた泥を払った。怯えは消え失せ、笑顔で兄の下へ戻ったのは言うまでもない。 「だー!!泣くな!!うっとうしい!!それから女々しい!!」 そんな様子の幼馴染を見かねた土方が、うがー!!っと声を上げた。 「貫禄があっていいだろうが!局長たるモン、隊士に恐れられてナンボだ!」 「だって…」 「”だって”もクソもあるか!!」 ガミガミと説教を始める土方。一方の山南は、苦笑いを浮かべつつ、明日夢の淹れた茶をすすっている。 「…そんなに気になるのなら、稽古してみてはどうでしょう」 ため息をつき、二人を見かねた明日夢が口を挟んだ。 「”稽古”って、何すんだよ?」 「簡単な事です。兄上自身が鏡に顔を映し、怖がられる事のない笑顔を浮かべる事が出来るようになるため、鍛練を積むんです」 そう言うと明日夢は、どこからともなく手鏡を取り出し、目を赤くした近藤に手渡した。 「これにより相手は人でなくなるのですから、怖がられる心配も、逃げられる心配もありません。思う存分稽古が出来るというものです」 「そうか。さすが明日夢だ」 感心した様子で頷き、さっそく近藤は手鏡の中に自身の顔を映した。 パリン!! 「「「「…」」」」 しかしその瞬間、手鏡はものの見事に割れた。まるで近藤の笑みに恐怖し…いや、拒絶するかのように。 「はい出ました!兄上の特技③”スマイルで鏡を割る”!」 (((特技に昇華させただと!?))) 明日夢の発言に、他三人の心が一致する。 「これで”口に拳を入れる”、”デスクワークから逃げる”に続き三つ目の特技が誕生ですね。おめでとうございます」 「どれもこれもくだらねえ!てか、少なくとも二つ目は特技じゃねーだろーが!!」 「その特技に”剣術”も入れといてよ!こんなんでも一応道場主なんだからさ!」 (開き直る明日夢君も明日夢君だけど、”こんなん”とか”一応”って、近藤君…) 心の声は一致したが、山南のツッコミは近藤のそれに届かなかった。 「気分転換に、町中を散歩してきてはどうですか?」 そんな山南の提案により、近藤兄弟は町に繰り出していた。
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