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武田の言う”好み”が、”男として”なのか”女として”なのかは不明だが。
「まあ、昨今じゃあ局長みたいな顔より、明日夢ちゃんみたいな卵型の方がブームだからねえ」
「あーあ。じゃあやっぱり、整形しか道はないのかなあ…」
二人の会話に絶望したのか、机に身を伏せる近藤。
「そこは聞き捨てならないね。駄目だよ局長。それだけはアタシが許さない」
そんな彼の言葉を聞き、武田はいつになく厳しい声を出した。
「良いトコも悪いトコも、それはその人だけが持つ”個性”なんだ。人の手を加える事でその”個性”が消える。整形なんて、二度と戻りやしない。取り返しのつかない方法で”自分だけの個性”を失うより、欠点をカバーしつつ”自分らしさ”を出す方法を考えな!」
「すみませんでした!!」
武田の啖呵に、頭をめり込ます近藤。
「…とは言ったものの、どうするんですか?」
”さすが言う事が違うなあ…”と思いつつ、明日夢は武田に問うた。
「そうだねえ…ま、顔に関してはアタシも助役と同じ考えさあね。局長は”局長”なんだから、貫禄は残した方がいい。でもこのままじゃあ、局長は不満なんだろ?」
土下座から回復しつつ、近藤は武田の言葉に頷いた。
「なら、顔以外のところで親しみを抱いてもらうしかないさね」
そう言うと武田はニヤリと笑った。それにすら色気が混じるのだから、本当にすさまじい。
「…”ギャップ萌えを狙え”…という事ですか?」
「そうさ。例えば”万年仏頂面なのに、実は俳句を詠むのが趣味”とか。そのギャップが親近感を抱かせたり、モテるポイントになったりするもんなのさ」
「…その例え、明らかに身近な人物を指してますよね」
誰とは言わんが。
「まあともかく、こういう手もあるって事さ」
「あとは自分で考えてみな」と、武田は茶をすすった。
「兄上、私です」
夜。in屯所。
夕食後、明日夢は近藤の部屋を訪れた。
「ああ、明日夢か。どうしたんだい?」
「すっかりお渡しするのを忘れていたのですが、こちら、本日届いた文と瓦版です」
「ああ。日刊浄土真宗だね。どれ…」
そう言って目を通したものの、すぐに近藤は体育座りをして、弟に背を向けてしまった。
まあ、当然の反応だろう。ただでさえ顔面コンプレックスを抱えているのに、悪鬼のような笑みを浮かべた瞬間の自分が、万人の見る瓦版に載ってしまったのだから。
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