第弐譚 近藤勇の嘆き

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武田の言う”好み”が、”男として”なのか”女として”なのかは不明だが。 「まあ、昨今じゃあ局長みたいな顔より、明日夢ちゃんみたいな卵型の方がブームだからねえ」 「あーあ。じゃあやっぱり、整形しか道はないのかなあ…」 二人の会話に絶望したのか、机に身を伏せる近藤。 「そこは聞き捨てならないね。駄目だよ局長。それだけはアタシが許さない」 そんな彼の言葉を聞き、武田はいつになく厳しい声を出した。 「良いトコも悪いトコも、それはその人だけが持つ”個性”なんだ。人の手を加える事でその”個性”が消える。整形なんて、二度と戻りやしない。取り返しのつかない方法で”自分だけの個性”を失うより、欠点をカバーしつつ”自分らしさ”を出す方法を考えな!」 「すみませんでした!!」 武田の啖呵に、頭をめり込ます近藤。 「…とは言ったものの、どうするんですか?」 ”さすが言う事が違うなあ…”と思いつつ、明日夢は武田に問うた。 「そうだねえ…ま、顔に関してはアタシも助役と同じ考えさあね。局長は”局長”なんだから、貫禄は残した方がいい。でもこのままじゃあ、局長は不満なんだろ?」 土下座から回復しつつ、近藤は武田の言葉に頷いた。 「なら、顔以外のところで親しみを抱いてもらうしかないさね」 そう言うと武田はニヤリと笑った。それにすら色気が混じるのだから、本当にすさまじい。 「…”ギャップ萌えを狙え”…という事ですか?」 「そうさ。例えば”万年仏頂面なのに、実は俳句を詠むのが趣味”とか。そのギャップが親近感を抱かせたり、モテるポイントになったりするもんなのさ」 「…その例え、明らかに身近な人物を指してますよね」 誰とは言わんが。 「まあともかく、こういう手もあるって事さ」 「あとは自分で考えてみな」と、武田は茶をすすった。 「兄上、私です」 夜。in屯所。 夕食後、明日夢は近藤の部屋を訪れた。 「ああ、明日夢か。どうしたんだい?」 「すっかりお渡しするのを忘れていたのですが、こちら、本日届いた文と瓦版です」 「ああ。日刊浄土真宗だね。どれ…」 そう言って目を通したものの、すぐに近藤は体育座りをして、弟に背を向けてしまった。 まあ、当然の反応だろう。ただでさえ顔面コンプレックスを抱えているのに、悪鬼のような笑みを浮かべた瞬間の自分が、万人の見る瓦版に載ってしまったのだから。
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