第弐譚 近藤勇の嘆き

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「兄上。私はありのままの兄上が好きですよ。きっと、山南さんも土方さんも総司も…兄上の心持ちをよく知る皆はそうでしょう。今はまだ難しいかもしれませんが、他の隊士たちも兄上の心根の良さを理解してくれる日が来ると信じています」 そう言うと明日夢は、兄のそばに箱を一つ置き、障子戸に手を掛ける。 「兄上が笑みを直したいと、状況を一刻も早く好転させたいと言うなら、私はいくらでも協力します。まあ、せっかくの特技が一つ減ってしまうのは残念ですが」 「え、ちょっ!待って明日夢!なんでこんなに鏡持ってんの!?」 明日夢がさりげなく置いて行こうとした箱の中には、ぎっしりと鏡が詰め込まれていた。手鏡のような小さいものから、ちょっとした鏡台まで多種多様だ。 「ああ、義姉上から頂いたものですよ。今日のも含め、毎度毎度贈られてくるんです」 「気を使ってくれてるのは分かりますが、私には無用の長物です」と、明日夢はため息をついた。 「え、ちょっと待って!!じゃあ、日中俺が割ったアレも…」 「無論、義姉上が贈ってきたものですが」 「うそん!!せっかくツネが明日夢に…」 「言ったでしょう、”無用の長物だ”と。兄上に割って…じゃなくて、兄上のお役に立てるなら、仮に私に贈ったものだとしても、義姉上としては万々歳でしょう。兄上の奥方なのですから」 「今”割って”って言ったよね!?俺に不良品処理させようとしてない!?」 「人聞きが悪い。使わない私が所持して”宝の持ち腐れ”をするより、例え結果割れてしまったとしても、必要としてる人に使ってもらった方が、贈った側も鏡としても本望だろうと言ってるんです」 「ああ言えばこう言う…」 返す言葉もないのか、ボソッとそう洩らす近藤。 「別に無理して使わなくてもいいんですよ。他の方法があればの話ですが」 「くう…」 その後、鏡のストックは数日で全て消し飛んだという。矯正に役立って散ったのかは、近藤はおろか、誰も知らない…。
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