第参譚 沖田総司の悪戯

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「…まあ、強さに関しては否定出来ませんが…」 「でしょう。そんなつまんない事に精を出すより、子猫たちと遊ぶ方が楽しいですもーん」 同意を求めてか、「ねー」と言って子猫を抱き上げる沖田。 「…」 普段なら、「与えられた職務はしっかりやれ!」とハリ倒すところだが、こればっかりは明日夢も諦めていた。 沖田は若くして天然理心流免許皆伝をし、その道場である試衛館の塾頭を務めた。その実力は兄弟子であり道場主でもある近藤を追い抜き、新撰組内でも最強を謳われている。そんな彼が剣術師範に選ばれるのは当然の事だ。 しかし、沖田は他人に教えるのがことさら下手くそだった。 ”教授”と”実戦”は異なる。”相手に合わせる”と”手を抜く”もそれと同様だ。 確かに彼も”人並みには”努力しているだろう。しかし、持ち前の天武の才で次々と剣技をモノにしてきた沖田にとって、”なかなか思うように出来ない””どうすれば技量が上がるか””どうやったら出来るようになるか”、その解決法を見い出す、教授する、それが彼には出来なかった。 もしそれを質問したら、彼はきっとこう答えるだろう。”想像力が足りないんです””たくさん戦えばいいんですよ””やったら出来ました”と。”教える”も何もあったものではない。 さらに言うなら、その性格がもう一つの要因だろう。 先の会話からも想像はつくだろうが、沖田は、中身子供のまま、外見ばかりが大人になったような人間だ。 面白そうな事は先陣切って行うが、その逆は躊躇なくすっぽかす。 沖田にとって”面白い事”とは、日々のイタズラ、そして、力量が同等な相手との生死を分けた戦いだ。 仮に彼の力量が大した事なく、発展途上の段階ならば、自らすすんで道場に顔を出し、飽きる事なく稽古に励むだろう。しかし、奴は新撰組一の遣い手。力の拮抗した相手がいるならまだしも、沖田にとって赤子のような仮同志と一緒の稽古なんて、つまらない事この上ないのだろう。 「うーん。総司が仮同志の稽古に出てないって事は、今回も力不足なコたちが多かったって事かなあ」 「あ、近藤さあん!!」 そんなところへ、苦笑いを浮かべた近藤がやって来た。 「やあ総司。今日も子猫たちと戯れていたのかい?」 「今日”だけ”ですよ近藤さあん。このコたちがどうしても”遊びたい”って言うので。普段はちゃーんと稽古つけてあげてますよ!」
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