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そう言うと沖田は、近藤の胸板にむきゅっと抱き付いた。鼻にかかる猫なで声と、甘えた感満載の行動。
いい歳いった男のする行動じゃねーだろうに。一つ言い忘れていたが、明日夢と沖田は同い年である。
「そうかそうか、それは仕方ないな。しかし、総司は本当に猫みたいだな」
「近藤さんさえよろしければ、私、近藤さん専用の猫になりたいです」
とことん甘やかす近藤と、笑顔でサラリと変態発言する沖田。
仮同志たちが道場で伸びていてくれて本当に良かった。こんな有様を目の当たりにしてしまったら、ドン引きどころか、あらぬ噂を立てられ…沖田としては本望かもしれないが…最悪、正式な隊士じゃない事を盾に夜逃げなんて事もあり得るかもしれない。
まあ、それは考え過ぎにせよ、これは仮同志含め隊士には見せられない光景である事は確かだ。ぶっちゃけ自分も見たくない。せめてヨソでやってくれ。
「近藤さあん、もっとなでなでして下さあい」
「よーしよーし。総司は昔から甘えただなあ」
そんな光景に内心うんざりしつつ引いていると、不意に、近藤の胸板にスリスリしている沖田と目が合った。死角なのをいい事に、”羨ましいだろ”と言わんばかりの黒いドヤ顔を浮かべている。
(…後で山南さんのところへ行こう…)
悩ましく、かつ痛々しい光景を見ているせいか、明日夢の頭には痛みが発生していた。
「兄上、総司を可愛がるためだけに此処までいらっしゃったんですか?他に何か用事があったのでは?」
もはや二人をぶん殴る気すら起きなくなった明日夢は、こめかみを押さえつつ問うた。
「えー、私の頭をなでなでするのも立派な用事ですよね近藤さん?それとも明日夢君、お兄さんを一人占めされて拗ねちゃってるんですか?」
「…」
ニヤつく沖田に対して殺意が芽生えるが、必死の否定が逆に肯定ととられてしまいそうなので、明日夢は無言を貫いた。そのうち、ボンボンで結んだそのイラつく前髪ちょん髷を引っこ抜いてやりたい。
「あー、二人を労うのもあるんだけど、仮同志の皆の様子を見に来たんだよ」
そう言うと近藤は、現れた時と同様の苦笑いを浮かべた。
「窓から見てたんだけど、なんかこう…気合いが足りないかなあ…。幹部の皆みたいな力量までは求めてないけど、武士としてのガッツはもう少し欲しいかな」
「確かに弱々しいですよねー」
近藤の言葉に賛同する沖田。”遠回し”と”直球”という違いはあるが。
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