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「誰もがみんな初めから化け物じみてる訳ではありませんし、場数を踏めば自然と度胸も付くでしょう。そのためにも鍛錬あるのみです」
「ゆえに剣術師範殿には、もっと積極的に稽古に参加して頂きたいんですが」と、明日夢はジットリと沖田を睨んだ。当人はどこ吹く風だが。
「明日夢は優しいなあ。確かにそれが”通常”だよ」
明日夢の嫌味が伝わったのか否かは分からないが、苦笑いのまま近藤は続けた。
「ただ、そうも言ってられないんだよ。池田屋以降、不穏な気配を感じていてね。出来れば即戦力が欲しいところなんだ。京・大坂でもイケない事はないんだけど、精神面も考慮したら、”やっぱり兵は東国に限る”って事になったんだ」
「へー」
「それで、江戸に行って隊士募集をする事になったんだ」
「え、じゃあ近藤さん、しばらく屯所からいなくなっちゃうんですか!?」
”くぅーん…”と見えない尾を下げる沖田。
「いや、俺は後。まず先に平助に江戸入りしてもらう。療養も兼ねてね」
「あー、そういえば、池田屋でデコ割られたんでしたっけ?あのおチビさん」
「誰が”豆粒おチビ”だ!!」
「そこまで言ってません」
過剰反応も含めたツッコミが聞こえたのと、沖田がその場から避けるのはほぼ同時だった。
彼がいた場所に何かが突っ込み、道場の壁が崩壊した。
「言っただろ!”あのミジンコおチビ”って!!」
「被害妄想も度が過ぎますよトウモロコシ君」
「”黄色いマメツブ”って言いてえのか総司ィイイ!!」
その瓦礫の中からケンカ腰で登場したのは、明日夢や沖田同様副長助勤を務める藤堂平助だ。トレードマークの黄色い着物が土埃ですっかり汚れてしまっている。余談だが、彼は最年少最小幹部である。
「まったく、”物を壊すな”と何度言えば分るんですか。それから額の血を止めなさい平助」
「へぶっ!」
そう言うと明日夢は、藤堂の顔面に自身の手拭いを叩き付けた。当たりもしないくせに飛び蹴りなんかするから、治りかけの傷がパックリ開いて血が噴き出すのだ。
「アハハッ。”ぴゅー”って血が噴き出すところなんて初めて見ましたよ。やっぱりからかい甲斐がありますねえ平助は」
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