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「おー、ワリワリ」
「遅ェぞ新八」
「さ、行きましょう」
朝。朝食を早めに食べ、三人は夜明けと共に屯所を出た。午前の巡察西廻りメンバーは、副長助勤の永倉新八、同じく原田左之助、そして同じく近藤明日夢だ。
「なんかこうやって三人で巡察なんざ久し振りだな!」
「そうだな。隊士が増えてからは副長助勤も一人二人で、隊士数人連れての巡察が多かったからな」
永倉の言葉に槍を担ぎつつ頷く原田。余談だが、彼は剣よりも槍を得意としており、教えを乞われて道場で指南している事もある。それはさておき。
「この間の池田屋事件をきっかけに、復権を目指して長州勢が集まってきていますからね。その警戒体制の一環ですよ」
二人の疑問に、一番端にいた明日夢が答えた。後の禁門の変の前触れである。
「へー。なるほどな」
「ちなみに東廻りの方は、隊士に昇格したばかりの元・仮同志十五名の大所帯です。ルートは勿論の事、巡察のノウハウを教えるためらしいです」
「なるほどな。で、あっちは誰が担当してんだ?」
「総司とハジメ君です」
「無気力な総司に堅物なハジメたあ、すげー組み合わせだな」
弱い者を嫌煙し、すっかり退屈してしまった沖田を、新米隊士を指導しつつ、真面目くさった顔で注意する副長助勤の斎藤一の姿が容易に想像出来たのだろう。永倉はげんなりとした表情を浮かべた。
「同感だ。…っと新八、一体何食ったんだ?口の周りに食いカス付いてるぞ」
「おー、ワリワリ」
原田の指摘に唇を舐める永倉。しかし全く見当違いの方向で、届いてすらいない。
「違ェよ。…ったく、しょうがねえなあ。じっとしてろ」
そう言うと原田は自分の親友の顔に手を伸ばし、親指の腹で口元を拭った。
「ほら、取れたぞ。”ちったあ落ち着いて食え”っていつも言ってるだろ」
「わ…ワリ…」
そんな二人のやり取りの中、明日夢は別の事も感じ取っていた。行き交う人々の視線、物陰からこちらを見てはひそひそと話をする人々。
また…か。
「ん?どうしたんだ新八?顔が赤ェぞ。熱でもあんのか?」
そう言うと原田は、永倉の前髪を掻き上げ、額と額を重ねた。そのせいで永倉のバンダナがずれ落ち、パサリと音を立てる。
「キャアアアアア!!」
と同時に、人々の黄色い悲鳴も上がった。一方の明日夢は自身のこめかみを押さえる。
原田左之助という人物は、一言で言うと”イケメン”に尽きる。
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