第肆譚 山南敬助の策略

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「名付けて”BLクッキー”。名前の通り、男性同士の恋愛を引き起こす菓子です」 そんな菓子を机に置いたまま、指先で回転させるよう彼は弄び始めた。 「とは言っても、さほど強力ではなく、せいぜい相手の些細な言動を意識させる程度です。加えて、効果は消化されないと発揮されませんし、半日程度しかもちません。さらに言えば、食べさせた相手が終始そばにいなければ、対象の過剰意識はよその男性に向かってしまいます。ですから使用するシチュエーションとしては、”意中の相手と二人きりの時に食べさせる”などがいいでしょう。で、あとは実力行使で」 熱く語る山南。一方で明日夢の脳裏には一抹の不安がよぎっていた。 「な、何故そのようなものを…。ま、まさか山南さん、屯所内を男色に染め」 「安心してください。そのような事はしませんよ。まあ、見てはみたいですが」 再び笑う山南。なぜだろう。心の底から安心出来ない。 「これは知人から頼まれた物なんです。あ、そうそう。余談ですが、これを仮に女性が食べた場合、ノーマルルートにも百合ルートにもなりません。人畜無害なただのクッキーと化します。また逆もしかり、これを女性が食べさせたからといって、男性がその女性を意識する事はありません。他の男性に意識が向きます」 「?」 「つまり、男性が男性に食べさせてこそ真価を発揮する…いわば”BLルートへの招待券”なのです」 「は、はあ…」 山南が何故そこまで強調するのか、明日夢には分からなかった。 「さて、ここで問題です。クッキーを食べた永倉君は、過剰ともいえる原田君のスキンシップに一喜一憂、顔を真っ赤にしていた。そうですね?」 「はい」 「でもよく考えて下さい。今日の巡察は二人ではなく”三人”でした。黒幕が私だと容易に突き止めたという事は、永倉君と菓子の件について会話をしているはずですし、三人で行動していたのですから、原田君の他に貴方も”対象”として、”相手”として認識されていたはずです。でも報告を聞いた感じでは、明日夢君は永倉君に意識される事なく、むしろ二人を客観的に観察出来る立場にいた。違いますか?」 「…確かに、新八さんは左之助さんばかり意識していましたが…」 「なぜでしょうね?」 黒いものを含むように、山南は再び明日夢に笑みを向けた。 「…さあ、なんででしょうね…」
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