第伍譚 永倉新八の悲劇

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「不公平だー不公平だー」 禁門の変を終えたばかりのある日の事。屯所に駄々をこねる声が響いていた。 「俺は池田屋も禁門も先陣切って踏み込んでったのにー」 「まあまあ永倉助勤…」 そんな彼を、山野たち隊士がなだめている。 「ガキかアンタは」 「ぐふぅ!」 年甲斐のない駄々を聞きつけ、永倉の脇腹に右ストレートを食らわせたのは明日夢だった。 「近藤助勤!」 「あーなるほど。こういう事でしたか」 床に広げられた今日の届け物を見、事の起こりを把握した明日夢。 「報告が遅くなってしまってすみません。ちょうど永倉助勤に出くわしてしまって…」 「いえ。これらは内容が内容ですから、私が直に届けておきます。皆さんはこのアホが痙攣してるうちに仕事等に戻って下さい。この件で絡まれると長いですからね」 「行くぞ皆!ありがとうございます近藤助勤んん!」 皆永倉を尻目に、ドタバタとこの場を去っていった。 「明日夢ぅう…」 「おや、もう大丈夫なんですか?」 床に大の字になってうめく永倉。 「確認のため訊くけど、結局何枚あった…?」 「左之助さんが十枚、土方さんが九枚、武田さんが八枚…」 「武田まで!?」 衝撃の事実に、彼はガバッと上体を起こした。 「多分、ファンレターか悩み相談の類でしょう。で、ハジメ君が四、総司が二、平助が一です」 「…三枚余ってんじゃねーか」 「…残りは、私宛てです…」 「…他は…?」 「もうないです」 「俺宛てのは…?」 「ないです」 「一枚も…?」 「一枚もないです」 「なんでだよォオオ!!」 再び喚き、のたうち回る永倉。 「何で俺宛てのはないんだよぉおお!!毎日まーいにち首を長ぁああくして待ってんのに!!俺に恋い焦がれる可愛いうさぎちゃんはこの世にいねえのかよぉおおぐへっ!!」
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