第伍譚 永倉新八の悲劇

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「取り敢えずやかましいですし、後半の台詞が気持ち悪いです。ヤケ酒に付き合ってあげますから場所を替えましょう」 明日夢は永倉の腹を一踏みし、そのまま足で蹴り転がしながら永倉ルームに向かった。勿論、彼がヤケで散らかした恋文たちも忘れない。 「明日夢ぅう…ヤケ酒に付き合ってくれるんじゃなかったのかよぉお…」 「昼間っから酒を飲む巨魁は、過去に一人で十分です」 そう言うと明日夢は、目を伏せて茶をすすった。 「加えて、明後日から兄上と共に江戸へ行き、平助と合流して隊士募集等を行うのではなかったんですか?”明日支度する~”なんて余裕こかしてると、必ず忘れ物等しますよ」 「…」 ぐうの音も出ないのか、顔を歪める永倉。 「まあ、”ヤケ酒”と言った手前がありますから、この酒粕饅頭で我慢してください」 「ちくしょおぉおお!」 再びヤケになった永倉は、次々と饅頭を口に放り込んでいった。 「別に何個食べても構いませんが、詰まらせるなどといった間抜けな羽目には」 「んー!!んー!!」 が、次の瞬間には、胸を叩いてのたうち回る。 「言ったそばから何やってるんですか。ほら、お茶ですよ」 ため息をついた明日夢は、急須から茶を注ぎ、彼に渡した。 「……ふう、生き返っ…って、あっちぃな!!あちちあちち!!」 「そりゃあ、沸かしたて淹れたて注ぎたてですから」 「殺す気か!!」 明日夢の方を掴み、ガクガク揺らす永倉。 「どうです?恋文の件に関しては少々落ち着きましたか?」 「へ…?」 事の発端がすっかり抜け落ちてしまっていたのか、永倉はキョトンとした表情を浮かべた。 「あ、そうだ!恋文!」 「駄々こねるのもいい加減にしなさい」 「ぶっ!!」 再び暴れそうになる気配を察し、明日夢は彼の頭にハリセンの一撃を食らわせた。 「いい歳こいた大人がみっともないですよ」 「だって俺もモテてーよ!左之も土方さんもあんなに貰ってさあ!平助にも明日夢にも届いてたじゃねーか!ハジメはまだ分かるが、あんな総司にも届いてるんだぜ!?」 「まあ、総司に関しては私も同感ですが、色恋に興味のない私にとっては、送ってくれた相手に申し訳ないというか…」
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