第陸譚 土方歳三の表裏

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沖田の言葉と明日夢のツッコミにドヤ顔を浮かべる山崎。彼はその身の軽さや、苦無などといった武具の異様さから実は忍者ではないかと疑われている。本人は否定も肯定もしないもんだから、まったく食えたものではない。 「誉めていません!いいから屯所を元に戻して下さい。先ほども言ったでしょう、”新入隊士が来る”と」 「だからこそ忍者屋敷にしたんですよ。新撰組がどんなところか、どんな日々が待っているかその身に教えてあげようと思いまして。いわゆる”アウェーの洗礼”というやつですよ」 「意味が違う!」 「受けなくてもいい俺らが、真っ先に洗礼受けてんじゃないっすか!!」 さすがに山野もツッコんだ。ちなみに正しい意味は”野球やサッカーにおいて、本拠地ではない対戦相手のホームグラウンド(アウェー)において待遇差別や嫌がらせを被る事”である。 「とにもかくにも戻して下さい。先程も言いましたが、今日は兄上たちも戻ってくるんです。屯所のこの惨状を見たら…兄上、泣きますよ?」 「!」 「”俺がいない間、一体何が起きたんだ!?”ってね…」 「……烝君、近藤さんが戻って来る前に、屯所を元に戻しましょう!」 「へ…?」 「ほら、急いでください!近藤さんに泣かれては困ります!!」 I love 近藤。近藤 is everything to 沖田。彼の世界の中心は近藤で、彼を軸に沖田の世界は回っている。 そんな近藤に、自身のしでかした事態で泣かれるのは相当耐えられなかったのだろう。 さっきまでの黒い笑みはどこへやら。山崎が追うのもやっとなスピードで沖田は消えた。 「…さすが近藤助勤っすね…沖田助勤の扱いを心得てるというか…」 「心得てたら、毎日毎日手を焼かずに済むんですが…ま、総司が試衛館に入門してからの付き合いですからね。この程度は基礎中の基礎です」 ため息をつきつつ、明日夢はそう言った。 そして、ちょうど無傷で通りかかった諸士調役兼監察の浅野薫に、二人がきちんと屯所を直すかどうかの見張りを頼んだのだった。 「土方さん、お届け物です」 その日の昼過ぎ。ここは副長助役室兼彼の自室。 「ああ。入っていいぞ」 「土方さん、十通ほど恋文が届いてますよ」 「捨ててこい」 「了解…と言うとでも思ったんですか?」 「!!」 ゴゴゴゴゴ…と不穏な気配に、土方はハッと我に返ってその方向を見た。 「あ、明日夢、お前だったのか…」
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