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「”助役に恋文を届けるたびに、捨てるよう言われて困ってる”と隊士たちから困惑の声が上がってますよ。私が先日お届けしたのも、他の隊士に処分させるよう持たせたらしいですし。てか、問題はそこじゃないんですよ」
明日夢は本日届きたてホヤホヤな恋文の束を、土方の文机に置いた。
「他人(ヨソ)様に届いた手紙を本人がどうしようか、それに関してどうこう言うつもりはありませんが、まったく見もせず、関係ない人に処分させるなんてどういう了見なんですか?」
「…さっきと問題同じだろ」
「…あれ?」
自分で言ってて訳が分からなくなったのか、一瞬固まる明日夢。
「ようするに”テメーで処分しろ”って事だろ」
「そうなんですが…それだけではないです。それは②です」
冷静になろうと、明日夢は一つ、深々と深呼吸をした。
「私が気に食わない点は、”もらった本人が中身を読まない”というところです」
「仕方がねえだろ。興味がねえ」
うんざりとした表情を浮かべる土方。
「興味がなくても目を通すのが”誠意”というものではないでしょうか」
「興味のねえ、関心のねえ連中にいちいち誠意つくすほど暇じゃねえ」
そして明日夢の言葉をバッサリ斬った。
「お前、アレあっただろ。江戸から大量に届く見合い写真」
「ああ、あれですか…。だいぶ前に”止めてほしい”とつづったのですが、完全に無視されて未だ送られてきます」
”バックナンバー壱から参拾を江戸に送り返してしまおうか”と思案している今日この頃である。
「あれも俺宛ての恋文みてーなポジションにあるだろ。お前は”身を固める気はない”って公言してるんだからな。そんなお前もいちいち見合い写真なんざに目ェ通してんのか?」
「まあ、言われてみれば確かにそうですが…一応目は通してますよ。面白い事に、同じ人が十回も十五回も出てきたりするんですよ。それから屯所に届く私宛ての恋文にも、ちゃんと返事は送ってますよ。”気持ちには応えられない”という、相手にとってはフラれる内容になりますが」
写真の事を思い出し、ふっと顔をほころばす明日夢。
「…お前は相変わらず、律義でクソ真面目な奴だな。俺もこうやって手間ァかけさせてる以上、人の事は言えねえが…総司や烝に振り回されるわ、仮同志の面倒見なきゃなんねーわ…大変なんだろ?ちゃんと休めてんのか?疲れてるだろ」
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