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「やーまーのー」
「だから、ありませんよ永倉組長」
「俺も恋文ほーしーいー」
「そんなに欲しいなら、この間いただいた方にお返事を書いたらいいじゃないですか」
「明日夢バリに突っぱねる事ァねえだろー。それに俺は、ムサいヤローじゃなくて女の子が好きなのー」
「永倉組長も”ムサいヤロー”に含まれる気がするんですが…」
「マッチョの何が悪ィんだあー!!」
「矛盾してますよ永倉組長ぉおおああだだだだ!!」
「”ムサい”以前に女々しいわ」
スパーン!!
「無慈悲ッ!!」
「恋文が届くたびに絡んでくるの、いい加減にしてもらえませんかねえ」
屯所の縁側。ハリセンを片手に叩きつけて弄んでいる明日夢の前には、縮こまって鎮座している永倉がいた。ついでにそばには、戦々恐々としている山野も。
「だってその…羨ましくて…」
「いくら羨ましくったって、度が過ぎます」
「だってよ明日夢ぅうう」
「問答無用!」
「うべしっ!」
明日夢のハリセンによる一撃が、永倉の脳天に振り落とされた。
「いくら羨ましがっても、その恋文は新八さんの物にはなりませんし、新八さんの下に恋文が届くようになるとも限りません」
「ぐう…」
「さらに言うなら、興味のない私にとって新八さんの悩みは、逆に羨ましい限りです」
「ちくしょおお!神は不公平だっ!」
「…変わりようのない現実を嘆くより、己自身を変える方が簡単ですよ新八さん」
「!」
あまりにもあまりにな永倉の様子に、明日夢は深々とため息をついてから口を開いた。一方そんな彼は、明日夢の言葉にピタリと動きを止める。
「貴方の周囲には左之助さんをはじめ、モテる方がたくさんいます。彼らを手本に自分を磨くんです。新八さん、顔は悪くないんですから、やろうと思えばいけるはずです」
「おぉおお…明日夢、お前…」
そして、目をキラキラと輝かせ始めた。
「さて、なら”善は急げ”です」
そんな彼の前に、明日夢は一枚の紙を突き出した。
「この書付けの内容に覚えがありますね?」
「………」
書付けの行を追うごとに、キラキラと輝いていた永倉の顔は、みるみるうちに青ざめていった。
「新八さんが大量にツケ払いした飲み屋さんからの請求書です。そもそも”本当にイイ男”は、お代をツケ払いになんかしませんよ」
「ちょっ、待て!!回数はともかく、俺、一度にこんなに飲んだ覚えねえぞ!」
「かなり前のもありますからね。利子が貯まってるんでしょう」
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