第壱譚 近藤明日夢の憂鬱

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「兄上、ただ今戻りました。これ、お土産です」 会津本陣への使いを終え、夕方、明日夢は屯所に帰ってきた。 「おかえり明日夢。あ、饅頭か!んじゃ、さっそく」 「食べても構いませんが、“井上さんや松原さんたちが作った夕食を一粒も残さない”とここに念書するならいいですよ」 「……食後のおやつにする…」 そう言うと近藤は、貰った饅頭を机の引き出しにしまった。 「あ、そうだ明日夢。手紙書き終わったからさ、明日夢が持っててよ」 「え、もう書き終わってしまったんですか?もっとかかると思っていたんですが。しかもこんなに…」 厚い手紙の束を受け取り、目を丸くする明日夢。一方、それを書いた近藤はドヤ顔を浮かべている。 「一度書き始めたら止まらなくなってしまってね。全部吐き出したら、こんなになってたんだ」 「お疲れ様でした。普段からこのようにやっていただけたら、私も山南さんも少しは苦労が軽減するんですが」 「う、うーん…そ、そうだ!せっかくだし、明日夢も手紙書きなよ」 話題を変えたかったのだろう。大きく手を叩いて近藤が提案した。 「私もですか?」 「そうそう。いつも“兄上が書くから十分だ”って、あまり書かないだろう。たまには明日夢の手紙も読みたいと思うぞ」 「…分かりました。兄上ほどの枚数に至るかは甚だ疑問ですが、私なりに書いてみる事にします」 「うんうん。それがいいよ」 そう言うと近藤は、愛おしい弟の頭を撫でまわすのだった。 「…とは言いましたが、何と書きましょうか…」 夕食後、明日夢は文机に向かっていた。 「取り敢えず…アレですね。兄上には、私をはじめ山南さんや土方さんといった沢山の仲間がついていますから、ご心配なさらないようにという事だけは確実に伝えなければ」 そう思い立つと明日夢は、季節の挨拶や、あまり手紙をしたためなかった無礼を詫びた後、その事を書きつづった。
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